映画の推し事毎日新聞 2025/12/30 08:00(最終更新 12/30 08:00) 2582文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷「白の花実」Ⓒ2025 BITTERS END/CHIAROSCURO 「一般的な天才性の所産」「全ての読者や批評家がいくら敵対的でも、ルイスの天才性に対してはリップサービスをするべきだと感じた」 坂本悠花里監督の長編監督デビュー作「白の花実」を見ながら、イングランドのサミュエル・テイラー・コールリッジとフランスのアンドレ・パラオ、2人の論客が思い浮かんだ。Advertisement「白の花実」Ⓒ2025 BITTERS END/CHIAROSCUROプチョンで出合った坂本悠花里監督作品 筆者がプログラムアドバイザーを務めた韓国・プチョン国際ファンタスティック映画祭で上映されたオムニバス映画「21世紀の女の子」のうちの一本、「reborn」の監督が、坂本だった。冒頭の言葉は「白の花実」に対する評価ではないが、妙に当てはまる。 記憶をさかのぼれば、6年前の第32回東京国際映画祭のプレスルームのモニターで開幕式を見ていた時の、拍子抜けした気分がよみがえる。 この年、コンペティション部門出品作の「悪なき殺人」の監督、ドミニク・モルが来なかった。彼に会ったら、聞きたいことがあったのだ。 バンサン・カッセルが悪の誘惑に負けてタブーを犯し、信者たちに敬愛される神父から破戒僧に転落してしまう主人公を演じた前作の「マンク 破戒僧」について。冒頭の2人が称賛したマシュー・グレゴリー・ルイスの同名小説「マンク」が原作だった。ジャンルはゴシックロマンス。「白の花実」Ⓒ2025 BITTERS END/CHIAROSCURO超自然的世界観の復権 「ゴシック(gothic)」とは、もともとゲルマン系のゴート族を指すか、「ゲルマン的」あるいは「中世的」という意味の形容詞。ゴシックロマンスは、中世欧州の建築物が与える暗黒時代の雰囲気から小説的想像力を引き出したという意味で付けられた名称である。 ほとんどのゴシックロマンスは、暗くて非日常的な物語を通じて恐怖感や神秘感を醸し出すことに主眼を置く内容で、18世紀後半から19世紀初めまで、一世を風靡(ふうび)した。 ゴシックロマンスに対する代表的な見解は二つ。ひとつは扇情的な文学に対する読者の要求と、手軽な利益を狙う出版業者の思惑が出合って生まれた、商業主義文学。 もうひとつは、理性こそが知識の第一の根源という合理主義の影響で長い間沈黙を強いられてきた、超自然的・感性的な世界観を復権させる浪漫主義文学だということ。 その世界観は、「理性の時代(Age of Reason)」とも呼ばれた18世紀を通して敬遠され、ひいては抑圧までされたものの、実は文明人の合理性の裏に居座り続けていたのだ。「白の花実」Ⓒ2025 BITTERS END/CHIAROSCURO古屋敷、古城、魔人の超能力 その範疇(はんちゅう)は非常に広く、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」やエドガー・アラン・ポーの「アッシャー家の崩壊」のようなものばかりではなく、性的欲望、窃視症などを通じて罪悪に対する不感症に陥った現代社会を鋭く批判したウィリアム・フォークナーの「サンクチュアリ」のような作品も含まれる。 「サンクチュアリ」の場合、「マンク」と一脈相通じる面があるように見えるが、それでもやはりゴシックロマンスといえば、トッド・ブラウニング監督の「魔人ドラキュラ」のように、幽霊や鬼が住んでいそうな古い屋敷や城を舞台に、魔力を持った人物が登場し、超自然的な事件が起きるといった作品が定番であろう。 「白の花実」にもその流れは続き、例を見つけるのは難しくない。「白の花実」Ⓒ2025 BITTERS END/CHIAROSCURO杏菜がつなぐ日常と“向こう側” まずは、アルバート邸と安中教会など別々のロケ地を一つの建物のように演出した、ボーディングスクールのビジュアルコンセプトを見てみよう。 前者はゴシック様式の復活をテーマにしたビクトリア様式、後者は中世教会建築を中心に発達したロマネスク建築で建てられ、ともにゴシックロマンスの雰囲気を漂わせている。 この舞台は、自由を渇望し家族間のひそかな葛藤に苦しむ、抑圧された青春の日常をかたどる枠組みとして機能する。そして、ここで生活する主人公の次原杏菜(美絽)が、日常とその向こう側(ファントム)の世界をつなぐ存在として決定的な役割を果たすのである。 彼女は作品に描かれる葛藤を体現し、その緊張が超自然的な世界にまで拡張されると、二つの領域をつなぐ特性を通じてその解決を模索する。「白の花実」Ⓒ2025 BITTERS END/CHIAROSCURO理解と連帯が葛藤を美しく昇華する 見逃してならないのは、観客の興味を向けさせる引力を、恐怖や驚愕(きょうがく)など欧米ホラーのフォーミュラではなく、霊魂や幽霊、妖怪といった存在はもちろん、怪奇現象や民間伝承、神話までも包摂する日本の怪談から得ていること。 この仕掛けによって本作では、心の傷が悲しみと恨みで深まり“恐ろしい何か”に「蒸着」されるのではなく、理解と連帯で克服され“美しい何か”に「昇華」される。 「白の花実」で描かれる「憑依(ひょうい)」は、他の多くの作品と異なって意思疎通の一環であり、要所に登場する青い鬼火も、杏菜に不在の友の思い出と温かさを伝えるメッセンジャーとしての役割を果たす。「白の花実」Ⓒ2025 BITTERS END/CHIAROSCURO若き3人とベテランの競演 だがこうした物語の劇的装置も、キャラクターがきちんと動かなければ用をなさない。心配は無用だ。何よりもその到達点こそ、「白の花実」の完成度の高さを証明しているのだから。 本作に登場する3人の核心的人物は、主演、助演の関係に分けられない。杏菜を中心に、穂乃川栞(池端杏慈)、大野莉花(蒼戸虹子)がさまざまに離合集散しながら、よく書かれたコンチェルトのようにプロットを構成していく。 その相互作用を現出させるのが、3人の女優の演技力と、それを効果的に調整する坂本監督の演出力である。さらに、澤井先生役の門脇麦を筆頭とする大人の俳優陣との演技競争が、ドラマの楽しさを増す。忘れてならないのは、ファンタジーである本作で特殊効果のように機能するサウンドトラックを手がけた、フジモトヨシタカの才能だ。 次世代を担う日本映画人が結集し、全方位にわたって示した力量に、感嘆詞を連発するしかない。 大量生産メーカーの“季節限定商品”のごとき、典型的すぎる“年末年始向けファンタジー”に飽き飽きしていないか。 そんなものより今週末は、根っこから葉っぱの先まで新しい、次世代の日本映画をお薦めしたい。メランコリックでありながらも最後はほほ笑ましい“J-コンテンツ”にはまってみてはいかがだろうか。居心地のよい映画館の座席が、我々を待っている。(洪相鉉)【時系列で見る】【前の記事】<ネタバレ解説>理想郷のメッキを剝ぐ生々しさ…実は骨太な社会派「ズートピア2」関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>