写真はイメージ=ゲッティ 新型コロナウイルスの流行後、バーチャルな体験が一気に広がった。 「オンライン初詣」もその一つだ。 2023年にコロナが感染症法上の5類に移行したことなどで下火になったが、26年も続けるところがある。 どんな需要があるのだろうか。1年余りで終えたオンライン祈とう 「『オンライン祈とう』ですか。今はもうやっていないですね。本来の形に戻させてもらいました」 そう語るのは、商店などが建ち並ぶ名古屋市中区にある三輪神社の担当者だ。 「推し活」へのご利益で有名な三輪神社は20年6月、コロナ禍で参拝に来られない人たちの「心の支えになりたい」と、新たにオンライン祈とうの受け付けを始めた。Advertisement ビデオ会議で依頼主と神社をつなぎ、実際と同じ内容で新年の祈とうも行っていた。 だが、1年余りで休止したという。 外出制限などが緩やかになり、次第にニーズが減ったからだ。1000人がライブ視聴 一方で、コロナ禍を機に始めた取り組みが定番化したケースもある。 東京都中央区の築地本願寺は感染拡大が本格化した20年4月、動画投稿サイト「ユーチューブ」で法話の配信を始めた。 20年大みそかの「除夜会(じょやえ)」では、感染対策で本堂に入る人数を制限しつつ行事の模様をライブ配信したところ、リアルタイム視聴者数が最大で約1000人に上った。 チャンネル登録者数は現在、3万人を超える。 25年大みそかも、除夜会の法要(午後4時半)▽パイプオルガンコンサート(午後10時)▽僧侶なんでも相談(午後11時)▽新年の書発表(1月1日午前0時)――をライブ配信する。 年始は、本堂で行われる「元旦会(がんたんえ)」(午前6時半)の法要を配信する。僧侶が生中継 普段から外出が難しい高齢者を対象にした取り組みは、コロナが明けてからもニーズが拡大しているようだ。 印刷大手「TOPPAN」はコロナ禍を機にオンラインで寺社に参拝できる配信サービスを、介護施設向けに始めた。 コロナ前から文化財のデジタルアーカイブ化などに取り組んでいたことが背景にあった。新年に増上寺と各地の介護施設をZoomでつなぐ「オンライン初詣」の様子=TOPPAN提供 第1弾として22年1月6日に行ったのが、東京都港区の東京タワー近くにある増上寺でのオンライン初詣だった。 ウェブ会議システム「Zoom(ズーム)」を使い、僧侶と司会役の女性が収録映像も交えながら寺の様子を生中継するもので、文化財の解説やクイズなども行った。 1施設当たり10人分プラン(税込み1万6500円)から用意し、お守りや紙製の絵馬を事前に施設に届けた。 22年は関東圏を中心に約700人が参加し、多くの入居者が画面越しに手を合わせた。 「コロナで外出が制限される中、とてもありがたい」と反響は大きく、23年は約1500人、24年は約3500人、25年は約5300人――と、年を追うごとにその規模は拡大していった。「レクとして楽しんでもらっている」 ただ、臨場感を味わえる生中継にはデメリットもあった。 まず、生中継の日時に施設側が合わせる必要があったという点だ。 施設側で機器の操作トラブルや通信環境の不具合が起きるリスクもあった。 そこで、TOPPANは26年から生中継をやめ、事前に収録した映像を施設側に提供するオンデマンド形式でのオンライン初詣を提供する。 年明け早々の増上寺の初詣の様子も撮影し、1月9~31日に配信する。 日時を選ばないため、高齢者の入居施設だけでなく、日替わりで利用者が来所するデイサービス施設での提供も見込む。 宣伝を兼ね、今回は事前登録した施設に無料で配信する。新年に増上寺と各地の介護施設をZoomでつないできた「オンライン初詣」。参加者が楽しめるクイズも盛り込まれている=TOPPAN提供 増上寺のおみくじも人数分を施設に郵送する。 僧侶の話やクイズのほか、現在工事中の重要文化財「三解脱門(さんげだつもん)」の修繕の様子、別の場所に保管中の仏像などの映像や解説も盛り込む予定だ。 TOPPANの担当者は「オンライン初詣をレクリエーションとして楽しんでもらっている。ここまでのコンテンツを提供しているところはなかなかない」と胸を張る。【尾崎修二】