北九州市の「文書ない」は「信用しがたい」 情報公開審査会が批判

Wait 5 sec.

複合公共施設の建設工事が進む初代門司港駅関連遺構の跡地=北九州市門司区清滝で2025年12月1日午後2時24分、伊藤和人撮影 「国史跡級」と評価された明治期の初代門司港駅(当時の名称は門司駅)関連遺構を北九州市が解体した問題を巡り、有識者でつくる市情報公開審査会(会長・阿野寛之弁護士、当時)が、解体決定に至る経緯を示す文書を「不存在」とした市に対して、行政文書の適切な作成を求める答申をした。答申は情報公開に対する市の姿勢を厳しく批判しており、専門家は文書管理規則を見直すなど対応を改めるべきだと訴える。 遺構は2023年秋、同市門司区での複合公共施設の建設に伴う調査で見つかった。多くの学術団体が遺構を国史跡級と評価し、現地保存を求めたが、市は施設建設を優先。24年1~11月に3度にわたって遺構解体に向けた方針を示し、同年11月末から解体した。Advertisement初代門司港駅関連遺構を巡る動き1 この間、毎日新聞などは解体方針を決定するに至った経緯が分かる議事録や、職員間のやり取りが分かるメールなどを複数回、開示請求したが、市はいずれも「関係者が一堂に会して議論し意思統一を図って進めており、文書は作成も取得もしていない」と回答した。 毎日新聞は24年5月、市情報公開審査会に不服審査を請求。これを受け審査会は、市が方針を決める際に協議メモすら作成していないのは「社会通念上信用しがたい」として、市の担当部局のメール画面やハードディスクを調べるなど11回にわたって審議し、25年10月28日付で答申を出した。初代門司港駅関連遺構を巡る動き2 答申書は、文書を作成していないとした市側の説明について「公文書管理制度や民主主義の観点からは非常に問題が大きい」と指摘。審議の結果、関連するメールや文書ファイルの存在を確認するまでには至らず、市の主張を「妥当と判断せざるを得ない」とした一方、「一点の曇りもなくその通りであると認めるまでには至らない」とくぎを刺した。 その上で付帯意見として「各職員が(行政を監視する)情報公開制度の趣旨を適切に理解して職務に当たっていたと評価することは到底できない」と厳しく批判。市民への説明責任を全うするよう求め、「行政文書の作成について適切な対応を行うよう強く願う」とした。 答申に法的拘束力はないが、担当の市都市戦略局は取材に「適切に公文書を作成管理していく」と釈明。ただ、審査会が文書の不存在に疑念を示したことについては答えなかった。解体工事が進む初代門司港駅関連遺構(右)。左上はJR門司港駅=北九州市門司区で2024年12月13日午前11時23分、本社ヘリから上入来尚撮影 行政の情報公開を巡っては、新型コロナウイルス禍対策で国が全国に配った布マスク「アベノマスク」の契約過程文書について、上脇博之・神戸学院大教授が開示請求したものの「不存在」として不開示決定とされたため、決定の取り消しを求めて大阪地裁に提訴。今年6月に地裁が大半の不開示決定の取り消しを命じた事案がある。 上脇教授は「アベノマスクの裁判では、業者とは口頭で交渉したとの国の主張を裁判所は認めなかった。今回の審査会の疑念は当然で、答申が文書の不作成を厳しく指摘したことは評価できる」と話す。 情報公開に詳しいNPO法人「情報公開クリアリングハウス」(東京)の三木由希子理事長は「文書が残されているかどうかを調査するために、審査会のメンバーが行政に出向くのは珍しい。市が不存在の理由を合理的に説明できなかったことの証しだ」と強調。「文書がないのは市が遺構保存の可否の具体的な議論を市役所内部で積み上げず、トップダウンで解体を決めたことを意味しているのではないか」と推測する。 公文書管理法は、法令制定などの意思決定の過程を国民が検証できるための文書作成を国の機関に義務づけている。同法に準じた内容の条例を設けている自治体もあるが、北九州市の文書管理規則にはその規定がない。 三木理事長は「北九州市は今後の対応を精神論でうたうのではなく、意思決定過程の文書作成を管理規則で義務づけるなど、具体的な見直しを図るべきだ」と指摘する。【伊藤和人】初代門司港駅関連遺構とは初代門司港駅関連遺構の発見場所 北九州市門司区の区役所や図書館などを集約する複合公共施設建設を前に実施された埋蔵文化財発掘調査で、2023年10月に見つかった。1891(明治24)年に建てられた初代駅の機関車庫跡や駅外郭の石垣などが確認され、国内外16の学術団体が「国史跡級の重要な遺構」として市に現地保存を要請。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」も24年9月、危機にひんした文化財保護を求める緊急声明「ヘリテージアラート」を出したが、市は施設建設を最優先し、一部を除いてほぼ解体された。北九州市情報公開審査会の答申のポイント・文書を作成していないという北九州市の主張は、公文書管理制度や民主主義の観点から非常に問題が大きい。協議内容を共有するメモすら作成されていないことになり、社会通念上にわかに信用しがたい。・審査会は市担当課のメール画面やハードディスクを調査したが、文書は確認できなかった。審査会による調査は、強制力の行使を伴って実施できるとの規定はなく、一定の限界があったといわざるを得ず、市の主張が一点の曇りもなくその通りであると認めるまでには至らないとの見解で一致した。とはいえ「決済文書などが存在しない」とする市の主張は、結論において妥当と判断せざるを得ない。・(一方で)各職員が公文書管理制度や情報公開制度の趣旨を適切に理解した上で職務に当たっていたと評価することは到底できない。市長はじめ全職員は答申を踏まえ、市民への説明責任を全うすべく行政文書の作成について適切な対応を行うよう強く願う。