荒れる陵墓保護へ、宮内庁が新計画 「卑弥呼の墓」は26年度から

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箸墓古墳(大市墓)=奈良県桜井市で2024年12月24日、本社ヘリから北村隆夫撮影 天皇や皇族の墓として管理している陵墓で台風などによる倒木被害が相次いでいることを受け、宮内庁は優先度の高い陵墓から樹木の処理計画を策定し、実態調査と伐採などを進めることを決めた。陵墓ごとの管理台帳も作成する。宮内庁への取材で判明した。 陵墓はこれまで荘厳さを保つため森林のような状態を維持してきた。近年、自然災害で文化財としての価値もある陵墓そのものが損壊する事態が続発したが、宮内庁の危機意識は薄く対応が後手に回ってきた。専門家などから批判が高まり、従来の管理方針を大きく転換した。Advertisement 初年度の2026年度は、卑弥呼(ひみこ)の墓との説がある奈良県桜井市の箸墓(はしはか)古墳(大市墓、全長約280メートル)など計4基の大型前方後円墳を調査し、27年度に樹木の伐採や剪定(せんてい)などの作業に入る。台風で埴輪や土器がむき出しに宮内庁が樹木の処理計画を策定した陵墓 宮内庁は従来、職員による見回りなどで倒木の恐れがある樹木を把握してきたが、近年は台風や大雨によって複数の陵墓で同時に大きな被害が出ている。 箸墓古墳では23年6月、大雨で樹木が倒れ、根元に埋まっていた葺石(ふきいし)や土器が地表に露出した。 他の陵墓でも倒木で墳丘に大きな穴が開いたほか、地中の埴輪(はにわ)がむき出しになった。倒木の危険がある樹木が手つかずになったままの陵墓もある。 陵墓の保全管理を話し合う有識者による陵墓管理委員会議でも「今は陵墓管理の一番悪い状態」などと対策を求める声が上がっていた。 こうした状況を受け、宮内庁は23、24年、主に西日本に所在する古代の陵墓159カ所を調査し、9割以上の145カ所で倒木の恐れがある樹木計4382本を確認した。宮内庁の対応策は?渋谷向山古墳(景行天皇陵)=奈良県天理市で2015年11月29日午前10時17分、本社ヘリから森園道子撮影 今後は、複数年にまたがる処理計画を立てて調査と伐採などを進める。必要な経費は26年度予算の概算要求に盛り込んでおり、その他の陵墓の防災、老朽化対策を含めて要求額は2億700万円。担当する職員2人の増員も要求した。 26年度は箸墓古墳のほか、奈良県天理市に所在する西殿塚古墳(衾田(ふすまだ)陵、全長約230メートル)▽行燈山(あんどんやま)古墳(崇神天皇陵、全長約240メートル)▽渋谷向山(しぶたにむかいやま)古墳(景行天皇陵、全長約300メートル)――の計4基が対象になる。 いずれも3~4世紀に築造された大型前方後円墳で、南北約3キロの範囲に並んでおり、初期ヤマト王権の大王の墓との説が有力となっている。 1年目は航空機から墳丘にレーザー光を照射し樹木の状況を調べ、地上からも植生を確認し、改めて危険性のある樹木を特定する。2年目は伐採に着手し、3年目以降も経過観察を続ける。 宮内庁は倒木被害の恐れがある145カ所の陵墓を、規模や台風の被害を受けやすい立地などから4分類している。4基以外の陵墓も優先度の高さや作業効率を考慮して、毎年選定し、調査と処理を繰り返していくという。 これまでなかった陵墓ごとの管理台帳も作成し、過去の工事や調査内容などを記録、関連部署の職員で情報共有する。宮内庁「今後は先手を打って」西殿塚古墳(衾田陵)=奈良県天理市中山町で2024年10月12日、松井宏員撮影 陵墓は皇室の祖先の墓として宮内庁が管理する国有地で、立ち入りは研究目的であっても厳しく制限されている。 ただ、私有地や公道と隣接している場所が多く、倒木による被害は民間に及ぶ可能性がある。箸墓古墳も墳丘に沿って公道がある。 野村元一陵墓課長は「日常的な保全管理業務の中で、危険な木は切るなどの作業を続けてきたが、近年は大きな台風などによる被害があり、事後的な対応を取らざるを得なかった。宮内庁として反省しないといけない」と述べた上で、「今後は先手を打って陵墓の保全とともに、近隣の住民の皆さんに迷惑をかけないよう取り組んでいきたい」と話した。【高島博之】