JR秋田駅近くにある千秋公園でもクマが目撃された=秋田市で2025年10月27日、高橋宗男撮影 クマが人里に出没し、人が襲われる被害が相次いでいる。環境省によると、今年度9月末までの全国の被害者数は108人、死者数は10月29日現在で過去最多の12人に上るという。 被害が深刻な秋田県は、自衛隊に協力を要請し、自衛隊は箱わなの運搬などの支援を始めた。クマの被害に遭わないようにするには、どうすればいいのか--。Advertisement 秋田市のJR秋田駅近くにある観光名所・千秋公園は10月下旬、クマの目撃情報を受けて封鎖され、近くの小学校が休校する事態となった。 交流サイト(SNS)上には「対策グッズをたくさん買って、毎日おびえて暮らしています」「一時的でも自衛隊が来てくれるのはありがたい」などの投稿が並び、住民が不安に包まれている様子がうかがえる。ドングリが大凶作 この秋、各地でクマが人里に出没し、人を襲う事態が頻発していることについて、野生動物管理が専門の山本麻希・長岡技術科学大准教授は「東北や新潟県など各地でブナのドングリが大凶作だった影響が大きい」と指摘する。 クマは冬眠前に大量の餌を必要とするが、この秋はブナのドングリがほとんど実らなかった地域が多いという。 「山に餌がなく、クマが人里まで下りてきた。しかも人を怖がらないクマが増えており、リスクが高まっている」と話す。 背景には、人の手が入らなくなり、放置されている山林や農地が多いことがある。山奥にいたクマが荒廃した里山に進出。さらには果樹などがクマを人里に引き寄せているという。 「例えば一度、リンゴの味を覚えたクマは、リンゴへの執着が強くなり、電気柵を越えてでも果樹園内に侵入するようになる」と指摘する。疲弊する地元猟友会 秋田県や市町村は地元猟友会と連携して、クマの捕獲や追い払いを進めているが、現場は疲弊している。 「捕獲後の運搬や処理だけでも重労働だが、猟友会はどこも高齢化し、担い手も減っており、毎日のように出没が報告される状況では、体力的にも限界だと思います」と山本さん。野生動物が近づくと、音と光で追い払う警報装置=福島県内で、齋藤寛会津大教授提供AIカメラで検知、音や光で追い払い こうした疲弊する現場をバックアップしようと、山本さんは会津大と連携して、AI(人工知能)カメラを活用した実証実験を進めている。 山際に設置したカメラがクマやイノシシが近づいてきたのを検知すると、野生動物が嫌う音や光を発して追い払う仕組みだ。 人里に近づこうとする個体の画像は、地元自治会や自治体にも即座に共有され、住民へ注意を促すこともできるという。 さらに、民間の研究チームとは、クマが嫌がる特殊な音を発する装置の実験も行っている。 「私たち人間が聞いても、耳をふさぎたくなるような不快な音で、クマが好む養蜂箱の近くに設置して、その後2年間はクマが寄りつかなかったという結果も出ています」という。 「AIや音響技術を組み合わせて、地域全体でリスクを下げる取り組みが必要です。技術開発にとどまらず、すぐにでも現場への実装が求められる時代になりました」長岡技術科学大の山本麻希准教授=本人提供個体数だけでなく分布の管理も 「クマに人里に出てこられた時点で、我々人間にとっては、すでに“負け戦”なんです」 山本さんはそう言い切る。 近年は、人里近くで子育てする母グマも多く、幼い頃から人に慣れた環境で育つクマが増えているという。 「人の生活圏から半径5キロ以内に定着しているクマを減らす必要があります。個体数の管理とともに、人里付近にクマが定着しないよう、分布の管理も進めることが必要です」と話す。 山本さんが関わる、新潟県から委託された調査では、県内120カ所にカメラを設置し、撮影頻度から生息密度を推計する試みを進めている。 新潟県では、本来クマの主食であるドングリが実るブナやナラの木がナラ枯れのため大量に枯死し、餌が少なくなっているという。 「人が手を入れてドングリが実るナラの森を再生しない限り、クマが人里に下りてくるのは止められないでしょう」と警鐘を鳴らす。【隈元悠太】