なまはげの衣装で会場を盛り上げた秋田県立大曲農業高の生徒ら=東京都千代田区の大丸東京店で2025年11月2日 「いらっしゃいませ!」「味見はいかがですか」。次世代の農業を担う高校生たちが、自ら作った農産物や加工品を対面販売する「全国農業高校HANASAKA収穫祭」(毎日新聞社、全国農業高等学校長協会主催)が11月2、3日、東京駅周辺の2会場で開かれた。全国から45校が参加し、会場となった大丸東京店と「YANMAR TOKYO」では、来場者を迎える高校生たちの声が響いた。最終日の表彰式では、販売姿勢や商品説明の仕方などが優れていたとして、福島県立会津農林高(全国農業高等学校長協会賞)▽岐阜県立岐阜農林高(毎日新聞社賞)▽岡山県立瀬戸南高(大丸東京店賞)▽三重県立四日市農芸高(ヤンマー賞)――がそれぞれ受賞した。大丸会場 オープニングセレモニーは大丸東京店11階の催事場で行われた。全国農業高等学校長協会の伊藤周(まこと)副理事長は「高校生の農業に対する思いや情熱、創意工夫を多くの人に知ってもらう絶好の機会。地域の課題解決に取り組んでいることもアピールしてほしい」と激励した。大丸百貨店の販売企画担当、藤井英美さんは接客の心得として、笑顔▽あいさつ▽大きな声▽返事▽機敏な動作――の五つを挙げ、「相手を思う気持ちや一生懸命さが届くことでお客様の心を動かすことができる」とアドバイスした。Advertisement 2会場のうち大丸東京店の催事場に出店したのは33校。10月に台風22号と23号が相次ぎ直撃し、大きな被害が出た伊豆諸島・八丈島の東京都立八丈高のブースでは、来場者から「大変でしたね」と励ましの声が次々とかけられた。東達康(みちよし)校長によると、生徒用玄関のドアが吹き飛んだり、下足箱がドミノ倒しになったり、経験したことのない被害が出たという。停電の影響で温度管理がうまくいかず、出品を断念した商品もあったが、店頭に並べたトマトケチャップ、いちごジャム、梅干しなどは次々と完売。木下和奏(わかな)さん(2年)は「『頑張ってください』と言って買ってくれる人がたくさんいて、元気づけられました」と語った。 地球環境への関心の高まりを受け、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を意識した出品も目立った。熊本県立北稜高のトマトふりかけ「たまフル」は、地元の農家と協力し、傷がついた廃棄トマトを乾燥させてつくった。上野佑月(ゆづき)さん(2年)は「酸味が強く、ご飯だけでなく、ピザやパスタ、お茶漬けにも合う。『去年買ったらおいしかった』と今年も買いにきてくれたリピーターもいます」とPRしていた。 温室効果ガスの削減や生物多様性の保全に取り組んだ目印として、農林水産省が推進するラベル(愛称・みえるらべる)を表示した農産品も出品された。参加45校のうちこのラベルを取得したことがあるのは4校。秋田県立増田高は有機物由来の肥料を使った、あきたこまちの「増高(ますこう)米」にラベルを表示して販売した。千田健太さん(2年)は「主食をおいしく食べてほしい、との思いで作っています。学校での取り組みを将来の農業に生かしたい」と話した。乳製品など例年大人気の商品を販売する北海道美唄尚栄高の生徒ら=東京都中央区のYANMAR TOKYOで2025年11月2日ヤンマー会場 YANMAR TOKYO地下1階にある「HANASAKA SQUARE」には12校が出店した。北海道から参加した8校は、ソーセージやベーコン、チーズなどの乳製品、北海道産米の「ゆめぴりか」などを合同でショーケースに並べて販売した。 毎年楽しみにしているという東京都北区の釘宮康さん(61)と直美さん(55)は「高校生が頑張っているので応援したくて。ベーコンはポトフにするといい味が出るんです」と話し、肉類やコメ、チーズなど7品が入った大きな袋を手に満足そう。 北海道岩見沢農業高の伊藤夢花さん(3年)は「岩農」ラベルのついたベーコンやソーセージを勧めながら、「自分たちが作ったことのない商品も多いので勉強になります」と他校の製品の売れ行きが気になる様子。食品科学科の大杉佳奈教諭は「かなり安い値段にしたので、2日間続けて買いに来るお客さんもいて、生徒は手応えを感じています」と話し、手作りのポップで商品をPRしていた。地元の食材を使ったレトルトカレー「さらのうキーマ」を販売した北海道更別(さらべつ)農業高は、試食を始めたところ売れ行きが伸びた。大川泰生さん(1年)は「賞味期限が2年間なので災害時の非常食にもなります」とアピールしていた。地下街に立ち寄る外国人もいて、ジャムを試食販売していた北海道士幌高の村上育志さん(2年)は、英語を交えて接客していた。京都府立須知(しゅうち)高校は、牛乳と乳酸菌、砂糖以外は無添加のヨーグルトや、校内の竹林で収穫したタケノコを使った味付けメンマをショーケースに並べたところ、安さも手伝って閉店を待たずに完売した。 大丸とヤンマーの両会場で買い物をすると、抽選で1000円分の買い物券が計40人に当たるスタンプラリーを実施した。スタンプ用紙は応援したい高校を選ぶお客様賞(毎日新聞社賞)の投票券にもなっていて、はしごする来場者も多かった。大丸会場でリンゴ、ヤンマー会場でアイスを買ったという東京都足立区の女性は「高校生の接客は初々しくていいですね」と話していた。 3日の最終日は午後2時で販売を終了。同2時半からHANASAKA SQUAREで閉会式が行われ、受賞校が表彰された。全国農業高等学校長協会の一ノ瀬淳理事長(東京都立園芸高校長)は「日ごろ育てた作物や、地域と連携して作ったすばらしい製品が並び、どの高校も熱意を持って接客していた。この経験を持ち帰って、今後の学びに生かしてほしい」とあいさつし、イベントを締めくくった。【尾崎敦、沢田石洋史】コラボメニュー 11月28日(金)まで、YANMAR TOKYO2階のイタリアンレストラン「ASTERISCO(アステリスコ)」で、農業高校生たちが作ったコメを使った特別メニューを提供している。週替わりで北海道と岡山の4校の異なる品種のコメが使われる。アステリスコで提供される特別コラボメニュー=ヤンマーホールディングス提供 1、3日には参加校向けの食事会が開かれ、生徒たちは北海道大野農業高の「ふっくりんこ」を使ったランチコースでカレーなどを堪能した。同校の海川愛和(あいな)さん(2年)は「シェフがカレー以外のライスサラダや肉料理のソースにもコメをアレンジして使っていたのが面白かった」と笑顔を見せた。また市橋峰司教諭は「東京でふっくりんこや生産地である北斗市を知ってもらえる機会になれば」と話していた。エコ特別賞 今年度はHANASAKA収穫祭関連企画として、王子グループが開発した紙製の農業用マルチシート「OJIサステナマルチ」の使用感について、参加校からリポートを募集した。サステナマルチはポリエチレン製と比べ、土壌分解ができるので環境に優しく、地温上昇を防ぎ夏場の農作物の生育向上も期待できるという。最も洞察に富んだリポートを作成したとして秋田県立大曲農業高に「エコ特別賞」が授与され、副賞としてトイレットペーパーやティッシュが贈られた。関口宗浩さん(3年)は「紙製のマルチを使って育てたキャベツは玉が大きく、実の詰まりも良かった。使用感も良く、引き続き白菜を育てている」と効果を実感していた。