映画の推し事毎日新聞 2025/11/9 22:00(最終更新 11/9 22:00) 2712文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷「爆弾」©呉勝浩/講談社 2025映画『爆弾』製作委員会 「爆弾」について話す前に、まず日本では使わない新造語のひとつを紹介したい。「シーンスティーラー(scene stealer)」である。 映画やドラマなどで素晴らしい演技力や独特の個性、カリスマ性などを発揮して、主演に劣らず注目を集める脇役のこと。直訳すれば「場面を盗む人」で、出演時間の長短とは関係なく、主演を超える魅力と存在感で観客を引きつける人物やキャラクターを指す。Advertisement「爆弾」©呉勝浩/講談社 2025映画『爆弾』製作委員会場面をさらう“シーンスティーラー” 短い出演にもかかわらず強い印象を残すため、作品の雰囲気を反転させ、感情を極大化する役割も担う。最近、シーンスティーラーは主演に劣らず、映画やドラマの興行力に貢献する主要要素として位置づけられている。 例えば今年の釜山国際映画祭の特別イベント「トーク・トゥ・トーク(Talk-to-Talk)」が、韓国映画のシーンスティーラー6人が参加するプログラムとして用意されたのはこのような現状を反映している。 今回紹介する「爆弾」の出演俳優の一人である佐藤二朗こそ、今の日本映画の代表的なシーンスティーラーではないだろうか。「爆弾」©呉勝浩/講談社 2025映画『爆弾』製作委員会「銀魂」で見せた群を抜くコメディアンぶり 筆者が初めて彼に遭遇したのは、人気アニメの実写化作品として38億4000万円の興行収入を上げ、2017年の日本の年間興行成績3位につけた「銀魂」に、武市変平太役で出演していたのを見た時だった。大食い競演のように演出された場面で、ラーメンを何杯も食べてしまう神楽(橋本環奈)を、可愛くて仕方がないという風情で見つめる彼の演技に爆笑した。 商業映画らしい豪華キャストを誇る作品だったが、その中でもお笑い芸人以上に観客を笑わせる彼は、文字通り「抜群」だった。翌年に続編「銀魂2 掟は破るためにこそある」が公開された時も、筆者が最初にしたのはキャストに彼の名前を確認することだった。「爆弾」©呉勝浩/講談社 2025映画『爆弾』製作委員会「さがす」のシリアス演技で世界級に もちろん、学生時代から俳優を志してきた彼の真価は、喜劇だけではなくストレートプレーでも遺憾なく発揮された。 「銀魂2」の4年後、新人の片山慎三を世界で注目される監督の座に押し上げた「さがす」で、佐藤は伊東蒼と類いまれなケミストリーを発揮し、“ワールドクラスアクター”の地位を固めた。 筆者の心をとらえた「銀魂」シリーズでのユーモラスな雰囲気はみじんもなく、苦しい生活を送る中で望みもしないのに指名手配中の連続殺人犯と絡んでしまう、家長であると同時に想像できない別の顔を持つ立体的なキャラクターの原田智を、見事に演じきった。「『アイ・アム・サム』のショーン・ペンのようなキャラクターなのか」という観客の予想を何度も覆す彼の姿は、メソッド演技の教科書と言える。「爆弾」©呉勝浩/講談社 2025映画『爆弾』製作委員会スズキタゴサクで絶頂期 人間的な一面を持ちながらも狡猾(こうかつ)な暴力団組長の平岡に扮(ふん)した「リボルバー・リリー」を経て、「爆弾」では“ホームレス出身のビラン(悪玉)”という斬新な役どころで登場する。ここで彼は、終始一貫して刑事たちを翻弄(ほんろう)する爆弾魔スズキタゴサクを演じ、俳優人生の絶頂期を迎えたと言っていい。 登場の仕方から、尋常ではない。カメラがフォーカスを合わせると、スポーツ刈りで一見して路上生活者のような服装をしている彼が目に入る。鼻歌を歌いながら正面を眺めて「正真正銘のスズキタゴサク」と紹介した後、ドラゴンズの大ファンだと説明する。 だが少し注意深く見れば、映画の中で事実として明かされるのはその程度で、後に続く警察署での彼の陳述は、すべて実際の彼の日常とかけ離れていることに気がつくだろう。さらに驚くべきことに、基本的に2人劇のフォーマットとして展開される6分近いファーストシーンの雰囲気を、佐藤はほとんど独白だけでリードしていく。こうした展開はラストシーンの直前まで一貫して維持されて、「爆弾」のストーリーテリングの柱となる。「爆弾」©呉勝浩/講談社 2025映画『爆弾』製作委員会話術と表情、わずかな動きで人物造形 ここで最も重要なのは、スズキの「表現力」だ。取調室という限定された空間の中で繰り広げられる刑事との心理戦を通して観客の想像力を刺激し、事件の全体像を把握させようとするこの物語で、決定的な位置を占める。スズキは口調と声のトーン、話術、両手首に手錠がかけられたままの制限された体の動きと表情で、自身のキャラクターを自在に造形していくのである。 あたかもスズキの独唱会だが、そのコーラスの役割を果たすのが、取り調べの最中に各地で次々と起きる爆発だ。サスペンスの本領、すなわち「クライマックスに向けた伏線を具現化する装置」として機能し、観客の関心を引きつけ続け頂点に到達させ、ついに大団円にまで導く。 それだけではない。絶え間なく起きる爆発はこの手のスリラーの定石で、ジョン・マクティアナンの代表作で名優ジェレミー・アイアンズがサイコ爆破犯として出演する「ダイ・ハード3」を超えるほどの作品は多くない。秀作がひしめき合うレッドオーシャンの爆破スリラーのジャンルにおいて「爆弾」は、俳優陣の豊かさという日本映画の強みを生かし、かなりいいところに付けている。「爆弾」©呉勝浩/講談社 2025映画『爆弾』製作委員会別作品のようなパートが合流、濁流に 本作は、プロタゴニストとアンタゴニストの2人の頭脳戦がストーリー展開の核となる見慣れた方式を排し、多層的な構造を採用している。つまり、刑事課のタフなベテランと感情的な新人(染谷将太と寛一郎)、公安課の2人の頭脳型(山田裕貴と渡部篤郎)という2組のコンビが交互に登場する合間に、現場の男女の巡査(伊藤沙莉と坂東龍汰)のパートが挿入され、それぞれが別作品のように全く違う雰囲気の中で話を進めていく。 大団円に近づくほど各パートの接点は増え、やがて全てが始まった警察署の取調室の周りに皆が集まるとひとつの流れに合流し、ついには巨大な濁流となる。 永井聡監督のフィルモグラフィーを俯瞰(ふかん)すれば、こうした要素の全てが含まれていることが分かる。「世界から猫が消えたなら」「恋は雨上がりのように」などのセンチメンタルなメロドラマで国際的なファンダムを形成しながら「キャラクター」でスタイルを変え、そうかと思えば「爆発」でまた別の完成へと到達している。 映画産業の危機の時代にあって、相変わらず俳優部も演出部も豊かな日本映画の現実を改めて目のあたりにして胸がいっぱいになる。「夏のホラー」が蒸し暑さを吹き飛ばすのと同じように、客席に身を沈めて没頭するには「秋のスリラー」がうってつけだ。読書に最適というほど集中力が高まる季節にぴったりの、満足感を提供してくれる秀作を見逃してはならない。(洪相鉉)【時系列で見る】【前の記事】坂口健太郎と渡辺謙の関係性はなぜこれほど魅力的なのか? 「盤上の向日葵」関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>