朝日新聞記事二階堂友紀2025年11月16日 19時00分再審制度の見直しについて議論している法制審議会(法相の諮問機関)の部会=2025年8月7日午後1時59分、法務省、二階堂友紀撮影 刑事裁判をやり直す再審制度の見直しを議論する法制審議会(法相の諮問機関)の部会で、再審開始決定に対する検察の不服申し立てを禁じるべきではないとの意見が多数を占めている。弁護士らは、このままでは冤罪(えんざい)被害者を迅速に救えないと訴えている。 今回の見直しで、検察の不服申し立てを禁じるかどうかは、証拠開示ルールのあり方と並ぶ焦点だ。静岡一家殺害事件で死刑とされた袴田巌(いわお)さん(89)が昨年、再審請求から43年をへて無罪となったケースで、救済が遅れる一因になったと指摘されているからだ。再審開始決定から9年 再審を受けるにはまず、再審を開くかどうかを決める再審請求審で、裁判所が「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」などを認め、開始決定を出す必要がある。ただ証拠は検察の手もとにあり、弁護側が新証拠を見つけるのは難しい。 その高いハードルを越えて開始決定が出ても、いまの法律では検察が不服を申し立てられる。このため再審を開くかどうかの争いが長引き、やり直しの再審公判がなかなか始まらない。 袴田さんの場合、再審開始決定から再審開始まで9年かかった。同じく再審無罪になった福井県の女子中学生殺害事件でも、最初の開始決定が取り消され、再審開始までさらに12年要した。鹿児島県で男性の遺体が見つかった大崎事件では、3度の開始決定がすべて取り消され、元被告は98歳になっている。証拠開示の議論と同じ構図 11日まで計10回開かれた法制審の部会では、検察の不服申し立てを禁じるべきではないとの意見が多数を占めている。 検察官は、検察の不服申し立てを禁じれば「誤った再審開始決定を是正する手段がなくなる」と主張。地裁・高裁・最高裁という三審制のもと確定した判決の「法的安定性が著しく害されかねない」と訴えた。 刑事法学者は、下級審の判断が誤っていたら上級審が正すという刑事訴訟法の上訴制度と「不整合が生じる」と指摘。別の学者は、不服申し立てを禁止すれば再審公判での検察と弁護側の争いが長引くとして「迅速化するか疑問だ」と述べた。 一方、再審弁護に取り組む弁護士らは、検察の不服申し立てが「冤罪被害者の人生の時間を奪ってきた」と強調。再審請求審は弁護側の主張を裁判所が職権で判断する仕組みで、検察は通常の裁判のような当事者ではないことから、弁護側と対等に不服申し立てを認めるべきではないと禁止を求めた。 さらに、いまは再審請求審と再審公判で同様の証人尋問などが繰り返され、実質的に2度の裁判を強いられていると説明。争いの場が再審公判に移れば「救済は迅速化する」としている。 確定判決などを重視する検察官や学者らと、少しでも早い救済を重んじる弁護士ら――。両者が対立して溝がうまらない構図は、証拠開示の範囲を限定するか広げるかの議論と同じだ。ドイツでは議会で「禁止」に 11日の会議では、海外との比較も議論された。弁護士らは、日本と似た仕組みをとるドイツは検察の不服申し立てを禁じていると指摘。ドイツ法に詳しい学者は、政府の法案には禁止が盛り込まれておらず、議会によって禁止されたとして、政治家による「政策判断だった」と語った。 法務省は法制審の答申をもとに、来年の刑事訴訟法改正をめざす。一方で超党派の国会議員連盟(会長=柴山昌彦・自民党政調会長代理)は、検察官の不服申し立て禁止を含む改正法案をまとめている。野党6党はこの法案を提出済みで、臨時国会での審議入りをめざす。 部会メンバーの田岡直博弁護士らは11日の記者会見で、ドイツにならい、法務省案ではなく議連案で法改正すべきだと訴えた。審理が長期化した袴田さんの再審手続き【11月25日まで】全記事が読み放題のコースが今なら2カ月間無料!詳しくはこちらこの記事を書いた人二階堂友紀東京社会部専門・関心分野人権 性や家族のあり方の多様性 政治と社会袴田巌さん、再審無罪2024年9月26日、強盗殺人などの罪で死刑が確定していた袴田巌さん(88)に、再審公判で「無罪」が言い渡されました。袴田巌さんに関するニュースをまとめています。[もっと見る]関連ニュースこんな特集も注目ニュースが1分でわかるニュースの要点へ11月16日 (日)「非核三原則」見直し検討へ中国、日本渡航自粛呼びかけ東京都、宿泊税引き上げ検討11月15日 (土)日中、非難の応酬デフリンピックきょう開幕大谷翔平 4度目のMVP11月14日 (金)総合経済対策案を与党に提示山上被告の母、遺族らに謝罪警察官がクマ駆除可能に11月13日 (木)捜査情報漏らしたか 警官逮捕斎藤元彦・兵庫知事を不起訴知床の遊覧船沈没、無罪主張トップニューストップページへ「日本では買ってもセーフ」それでいいの? 売春防止法改正求める声16:00イオン能代店にクマ、従業員が棚で囲い込む 吹き矢で麻酔かけ捕獲18:51赤坂のライブハウス前、出演前の女性刺され重傷 男が自転車で逃走か18:03「日本留学慎重に」中国が呼びかけ、台湾有事の首相答弁で対抗措置か17:57風の谷のナウシカ「メーヴェ」モデルの飛行機 ラストフライトに歓声18:3090歳の絵筆、やっと描けたあの日の記憶 「逃げてきた。伝えんば」13:00