ラグビー女子日本代表の山本実選手=福岡市東区で2025年5月21日、角田直哉撮影 異国での3年を「まるでジェットコースターのよう」と表現する。8月22日開幕のラグビー女子ワールドカップ(W杯)イングランド大会のメンバーに入った山本実選手(28)=YOKOHAMA TKM。2021年夏から3季、イングランドでプレーした日本代表の司令塔だ。ラグビー発祥の地で磨いたコミュニケーション力と視野の広さでチームを8強以上に導く。 山本選手にとっては自身3度目のW杯となる。初出場の17年アイルランド大会は「本当に何も知らない状態で飛び出して、課題だけを持ち帰った大会」だったという。Advertisement 2度目のニュージーランド大会は新型コロナウイルスにより開催が22年に延期された影響で自身の海外挑戦と時期が重なった。「W杯前の大事な時期を日本代表メンバーと一緒に過ごせずチームにフィットできなかった」。2大会とも見せ場に乏しく1次リーグ敗退に終わったことも消化不良感を増幅させた。 だが今大会は違う。W杯を見据えて24年夏からは拠点を日本に戻し「サクラフィフティーン」の一員として実績を重ねた。「今回は長く皆と時間を共有できた。しっかりフィットした状態で最大限に力を発揮して、どうなるのか。すごく楽しみ」と表情は明るい。 「何とかなる」と勢いで飛び込んだ英国での経験が自信の根拠だ。21年夏からイングランドの女子国内最高峰リーグの「ウスター・ウォリアーズ」で2季プレー。言葉は通じず、周りは体の大きな選手ばかり。それでも「失敗してもいい。チャレンジし続ける」と代表クラスがそろう仲間に物おじせず、司令塔として必死にタクトを振った。ラグビー女子日本代表の山本実(左)。司令塔として広い視野を生かして攻撃を引っ張る=ミクニワールドスタジアム北九州で2025年7月19日、林大樹撮影 思いも寄らぬ危機にも直面した。3季目を前にウォリアーズが財政破綻により解散。山本選手は新たな所属先探しを余儀なくされた。幸い「セール・シャークス」から声がかかったが、同時期にイングランド代表有資格選手のメンバー入りに関する制度変更などもあり、出場機会を巡る、より厳しい競争にさらされた。 「いいパフォーマンスをしたのに何で、と思う時もありました。悔しい思いも何度もしました。でも自分のやることだけはぶれないようにと取り組みました」 チームも勝ち星に恵まれない苦しいシーズンだったが諦めず、前向きに取り組み続けると最終戦で光が差した。下位に沈んでいたシャークスは上位の格上チームに勝利。途中出場した山本選手も精度の高いキックで攻撃を引っ張った。「(海外挑戦が)ちょっと遠回りに見えた時もあったが、でも今ようやくこうやっていろいろな経験がつながって、成果が出始めている」。手応えを得た山本選手はその後、帰国して、YOKOHAMA TKMに加わった。取材に応じるラグビー女子日本代表の山本実=福岡市東区で2025年5月21日、林大樹撮影 山本選手は女子ラグビー界のパイオニアでもある。自身は海外挑戦中に所属企業を退職して「プロ」に転向した。女子ラグビー界は、男子と比べて知名度や普及面などで課題が多い。 「トレーニングや体のケアも細部にこだわって行えて、パフォーマンス向上につながっている」とプロ選手のプラス面を実感する。一方で「結果を出さないといけない重圧は大きい」と本音もこぼれるが、「今後の若手の選択肢を増やすためにも、今回のW杯でしっかり結果を出して女子ラグビーの知名度を上げることが必須」と先駆者としての決意は固い。 激動の3年間で、プレーだけなく精神的にもタフになった。三度目の正直。満を持して日本女子ラグビーの未来を懸けた戦いに挑む。【角田直哉】 1996年12月9日生まれ。横浜市出身。田園ラグビースクールで本格的に競技を始め、東海大相模中、高を経て日体大に進学。三重を拠点とするパールズに加入し、2021年夏からイングランドのウスター・ウォリアーズ、セール・シャークスで計3季プレーした。24年夏から日本のYOKOHAMA TKM所属。日本代表として17年、22年ワールドカップを経験した。ポジションは主にスタンドオフ。