わたぼうし音楽祭で「僕の友だち」を披露する三橋奏太さん(左)とyu-kaさん=神戸市立盲学校提供 障害がある人がつづった詩に曲を付け、ステージで歌う「わたぼうし音楽祭」。50周年の節目となる8月3日のステージが目前に迫った。社会への願いを乗せた数々の曲は、風に吹かれるわたぼうしのように世界に飛び立ち、聴き手の意識を変えてきた。自分らしく生きられる社会の実現に必要なものは何なのか。 「わたぼうし音楽祭」では、異なる障害がある2人が協力して作った歌を披露する。全盲の中学生の三橋奏太さん(13)が作詩し、発達障害のシンガー・ソングライター、yu-ka(ゆうか)さん(32)が曲をつけた。年の差がある2人だが、スマートフォンアプリの「LINE」でもつながる友達だ。歌は奏太さんの純粋な感情を込めた「僕の友だち」。生きる人たちへの応援歌だ。Advertisementイライラ、葛藤を詩にぶつけ 神戸市立盲学校中学部2年生の奏太さんは生まれつき目が見えない。生後間もなく、命も脅かされる病気で入院する事態にもなった。名前は両親が「人生を太く奏でてほしい」と願って付けられた。 奏太さんは好奇心旺盛で、4歳から始めたピアノは発表会で優れた成績を収めるほど。母友季子さん(43)が「完璧主義者」というように失敗して悔しがることも多いが、「弾き終わった後の達成感が好き」と練習に励む。スマホの視覚障害用の高度な機能を使いこなし、自分仕様にカスタマイズするのも得意だ。将来は情報通信技術(ICT)分野で活躍する姿を夢見る。 奏太さんは学校の宿題で「音楽祭」に出す詩を作ることになり、思春期で芽生え始めた感情を「僕の友だち」という詩にした。2歳下の妹が自由に外出する姿にイライラしたり、逆に現状に納得したりする自分の葛藤を率直にぶつけた。 「家に帰ると今日もまた 遊びに行ってる妹は 見えない僕は 外を1人で 走ることさえ難しい」 妹が成長し、できることが増えるにつれて芽生える心のモヤモヤを表した文から始まる。「今までは兄の自分の方ができることが多かったのに、妹が新しいことができるようになり、ストレスを感じることが増えた。目が見えないことで制限されることがとても多く、気持ちが沈むこともあった」と打ち明ける。だが、そのモヤモヤは友人がかき消してくれることに気づいた。 「僕のそばにいて 寄り添ってくれる 素敵(すてき)な友達 いるじゃないか」 詩の中盤では、鉄道やユーチューブの話などで盛り上がり、時に1時間超の長電話をするなど友人との楽しい時間を思い返した。 「これからもっと つらくなったら そのときは プラスに考え わらってみたいな」 最後は力強い言葉で締めくくった。 奏太さんのプラス思考は、友季子さんが日ごろから掛ける言葉が影響している。「どうにもできないことを考えても仕方ない。しんどくなるだけだよ」。これまでは聞こうとはしなかったが、少しずつ受け入れ始めた自分がいる。「妹とは方法は違うけど、自分には友人と過ごす楽しい時間がある。母の言葉の意味が分かるようになった」と照れる。「喜怒哀楽が伝わる」曲に 作曲した神戸市在住のyu-kaさんは2024年12月、奏太さんが通う学校の授業の一環であった「職業インタビュー」の講師に招かれた。お互いがピアノ演奏を披露し、それぞれが尊敬し合う関係になった。同校の教師を通じてLINEでもつながるようになり、奏太さんの詩が入選したのを知ったyu-kaさんが作曲を志願した。「素直で力強い感情が表現されている」と詩の魅力を話す。 yu-kaさんは高校生の頃、自身が同級生たちとは違うと感じ始め、発達障害と診断された。「周囲から段取りの悪さなどを指摘されることが増え、苦しい経験をした」と振り返る。現在は「応援ソングライター」として、企業や団体などの応援歌を作っている。神戸を中心にピアノの弾き語り演奏もする他、同じ障害に悩む人や家族を支援する講演活動も行う。 自身が悩んだ経験から奏太さんの葛藤に共感する部分も多く、そして何より友の詩に曲をつけたいと思った。本業では作詞、作曲の両方を手掛け、作曲だけをする機会は少ないため戸惑ったが「奏太さんの喜怒哀楽が伝わるよう意識した」。力強さと優しさを併せ持つ曲に仕上げた。 音楽祭では奏太さんがピアノを弾き、yu-kaさんが歌う。奏太さんは「緊張しそうだけど、気持ちを込めて奏でたい」。yu-kaさんは「『皆さんにも友達がいるよ』というメッセージを伝えたい。会場にいる全員への応援歌です」と語った。【山口起儀】僕の友だち家に帰ると今日もまた遊びに行ってる妹は見えない僕は 外を1人で走ることさえ難しい仕方がないとは わかっているけどうらやましくて 仕方がない誰も悪くは ないけれど物にあたって ストレス発散どうして僕だけ 遊べない?どうして僕だけ 走れない?答えなんかは 多分ないのに僕の頭はそればかりいつものように デイに行きみんなと話して 盛り上がるなんてことない そんなときもやもやのこと 思い出す僕にも友達 いるじゃないか僕の話を 聞いてくれたり困ったときに 声をかけてくれたり僕のそばにいて 寄り添ってくれる素敵な友達 いるじゃないか遊ぶってのは 走ることじゃないお話すること 工作すること笑い合うこと...そんなことは 今までも理解している つもりでも実際なんにもわかってなかった物事はつねに 変化するとらえ方により 変わるかもなんでもプラスに 考えることで絶対 絶対 人生よくなるなんだかそれから 前よりもたくさんたくさん 笑ってるこれからもっと つらくなったらそのときはプラスに考え わらってみたいな