3層3階の天守。この背後には瀬戸内海まで見渡せる眺望が広がる=香川県丸亀市で2025年11月20日午後0時5分、広田正人撮影写真一覧 「石垣の名城」と呼ばれ、香川県丸亀市のシンボルとして市民に愛される丸亀城。江戸時代以前に築かれた天守が今も残る「現存12天守」の一つで、優美な石垣が人々を魅了する。その城が「悲運」に見舞われたのは、築城から400年以上経た2018年だった。西日本豪雨で損壊・崩落 広島、岡山、愛媛の3県を中心に200人以上が犠牲となった西日本豪雨の影響で、同年7月7日、丸亀城「帯曲輪(おびぐるわ)石垣」南面の一部が損壊。ブルーシートで養生し、11月にも修復工事に着手しようとしていた矢先の10月8日、今度は同石垣西面が幅約18メートル、高さ約16メートルにわたって崩れ、翌9日には、上部に造られた「三の丸坤櫓(ひつじさるやぐら)跡石垣」が東西約25メートル、南北約30メートル、高さ約17メートルの範囲で崩落した。Advertisement 西日本豪雨や台風24号など相次ぐ大雨で緩んだ帯曲輪石垣が崩れたことで、三の丸坤櫓跡石垣も基礎部分を支える地盤を失い、崩壊が連鎖したとみられた。石垣の名城の無残な姿に、丸亀城管理室主査の真鍋一生(かずき)さんは(38)は言葉を失った。崩落した石垣の修復工事は2030年度の完工を見込む=香川県丸亀市で25年11月20日午後0時26分、広田正人撮影写真一覧 丸亀市は「丸亀城石垣崩落対策本部」を設置し、「がんばれ!丸亀城応援募金」事業を開始。崩落から約1年4カ月後の20年1月末、石垣の本格的な復旧工事に着手した。高さ31メートルの石垣を積み上げるという国内で前例のない作業を前に、まずは応急対策が必要だった。「グラウンドアンカー工法」で高強度の鋼材などを地盤に打ち込み地滑りを防ぎ、崩れた石や土砂を回収し、24年8月に石垣の積み上げ工事を始めた。 「石はできる限り、元にあった場所に戻す。一つ一つ丁寧に、根気のいる作業です」。工事を所管する真鍋さんはそう語る。工期終了は23年度の見通しだったが、市は3回にわたり修正し、現在は30年度を見込む。事業費も当初の31・5億~35・5億円から52・5億円へ、更には86億円と2回の見直しを余儀なくされたが、崩落から7年が経過した今も工事は続けられている。天守と大手門は重要文化財に 丸亀城の築城が始まったのは1597(慶長2)年だ。豊臣秀吉から讃岐国(香川県)を与えられた生駒親正、一正親子が着手し、1602年に完成するが、藩主の生駒一正は高松城(高松市)に移り、丸亀城には城代を置いた。15(元和元)年、江戸幕府が全国支配を盤石にするため、諸大名に居城以外の城は全て破却するよう命じた「一国一城令」により廃城となった。丸亀城の天守と大手門(手前)。天守、大手門が一緒に見られて写真撮影できる城は珍しいという=香川県丸亀市で2025年11月20日午前11時44分、広田正人撮影写真一覧 お家騒動により生駒家が改易された後、41(寛永18)年に丸亀藩主となった山崎家の下で再建が始まり、石垣など現在につながる基礎が築かれた。58(万治元)年からは京極家が藩主となり、2年後に天守が完成。70(寛文10)年には大手門もできた。天守と大手門は現在、国の重要文化財に指定されている。 「天守と大手門が一緒に見られて写真撮影もできるのは、(現存12天守の中でも)高知城、弘前城とうちだけですよ」。丸亀城管理室長の大林隆之さん(51)はそう胸を張る。軍事施設→地域の心のよりどころへ 築城以来、「戦」を経験したことがない丸亀城は、旧来の軍事施設から、地域住民の憩いの場、心のよりどころへと変化した。丸亀城が国の重文に指定された1950年に「丸亀お城まつり」が始まり、丸亀市最大のイベントとして今も続く。丸亀城の天守内の1階。城泊ではこのスペースがナイトラウンジとなり、お酒も楽しめる=香川県丸亀市で2025年11月20日午後0時7分、広田正人撮影写真一覧 崩落した石垣の再生という難工事を進める一方、市は2024年7月、観光客が丸亀城に貸し切りで宿泊できる「城泊(しろはく)」を始めた。宿泊客は送迎の人力車で城に到着し、丸亀藩主だった京極家の江戸屋敷から部材の一部を移築した貴賓室「延寿閣別館」に宿泊。城泊の「お手本にした」(丸亀城関係者)という大洲城(愛媛県大洲市)のようには天守に泊まることはできないものの、夜には天守を貸し切った「ナイトラウンジ」で、丸亀の夜景を眺めながらお酒なども楽しめる。大人2人で100万円超と高額だが、これまで5組が利用しており、インバウンドを含む富裕層からも注目されている。 丸亀城では江戸時代、藩士がやぐらに備えた太鼓を約2時間おきに打ち鳴らし、城下に時間を知らせていた。市は06年に「時太鼓」を復活。城内の観光案内所内の「うちわ工房・竹」の職人が毎日、正午に太鼓をたたく。 この工房では、熟練の職人が伝統工芸品の丸亀うちわを実演販売する他、客はうちわ作り体験も楽しめる。 3層3階造りの天守は高さ15メートル。全国の現存12天守で最小ながら、地域にしっかり根を下ろす。「天守だけじゃなく、堀から内側全てがお城。復旧現場も含めて『石垣の名城』を見るために、ぜひ足を運んでほしい」。真鍋さん、大林さんはそう声をそろえる。【広田正人】コロナ禍を挟んで3年ぶりに再開され、多くの来場者でにぎわう丸亀お城まつりの会場=香川県丸亀市で2022年5月3日午後1時51分、川原聖史撮影写真一覧丸亀城 JR予讃線丸亀駅から徒歩約15分。高松自動車道・善通寺インターチェンジ(IC)、瀬戸中央道・坂出ICからいずれも車で約20分。周辺に無料、有料駐車場あり。