大阪・関西万博のブルガリア館前に設置された、やさとみかげ製の「平和のモニュメント」=大阪市此花区で2025年4月撮影(日本石材産業協会提供) 民間シンクタンクが2025年に発表した都道府県の魅力度ランキングで茨城は46位。最下位こそ免れたものの、調査が始まった2009年以来、下位から抜け出せない。果たして本当に魅力がないのだろうか――。取材してみると、知られざる魅力を支える人たちがたくさんいることが分かった。茨城の「いいとこ」を探してみよう。 2500万人が訪れた大阪・関西万博は2025年10月、熱気の中、フィナーレを迎えた。会期中、全周約2キロの大屋根「リング」の内外には165の国・地域・国際機関が出展。その一つ、ブルガリア館の前庭には「平和の祈り」をテーマにモニュメントが飾られ、世界に強いメッセージを放った。Advertisement 作品「Prayer For Peace」(高さ2・8メートル、幅・奥行き各1・5メートル)。茨城県石岡市八郷(やさと)地区産の御影(みかげ)石「やさとみかげ」を用いて、隣の桜川市にある工房で作られたことはあまり知られてはいない。 <世界が永遠に平和でありますように> 台座にそう刻まれたモニュメントは、一般社団法人・日本石材産業協会(東京都千代田区)加工部会が、ブルガリア人彫刻家のイバン・ストヤノフさんと共同制作した作品だ。ロシアによるウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザ地区での戦闘は今もなお続く。部会長で、桜川市の石材字彫(じぼり)業、北島敏行さん(46)は「1000年先まで残る石を使い、万博で『平和』という人類共通の願いを発信したかった」と振り返る。「平和のモニュメント」を制作したブルガリア人彫刻家、イバン・ストヤノフさん=桜川市亀岡で2024年秋撮影(日本石材産業協会提供) ブルガリア大使館を通じて日本に招かれたストヤノフさんは、24年10~11月、制作に励んだ。後に、協会が発行した記録冊子にストヤノフさんの石への思いがつづられている。 <石は永遠の強さと持久力を持ち、歴史・文化・自然の重みを担い、表現手段として、時の力、大地の記憶、そして変化の可能性を内包している。石には物語があり、私の仕事はその物語を受け継ぎ、語り継ぐことだ> 来日中、住居や道具を貸与し活動を支えたのは桜川市の彫刻家・浅賀正治さん(72)。全国の公園など700カ所以上に自作の石像を設置してきた。1985年にブルガリアの美術国際コンクールで金賞を受賞した縁で、同国の芸術家を2年ごとに招く交流活動を続けてきた。 山形県出身の浅賀さんは30歳の頃、「日本を代表する石の産地で(彫刻家として)活動したい」と、知り合いがいない茨城に移り住んだ。浅賀さんは石材としての「やさとみかげ」を「モニュメントにとても適した素材だ」と太鼓判を押す。青みがかった灰白色に点在する石英のグレー。そのコントラストが独特の雰囲気を生む。 同石を含む「筑波山塊の花崗(かこう)岩」5種は24年7月、国際地質科学連合(IUGS)が認定する、世界を代表する55の天然石材遺産(ヘリテージストーン)の一つとなった。国際的価値が高く、人類との関わりが古い天然石が対象で、東アジアでの認定は初めてだ。 5種は産地にちなみ、「真壁石」(桜川市)、「稲田石」(笠間市)などと呼ばれる。国宝の迎賓館赤坂離宮や国指定重要文化財の日本銀行など、日本を代表する近代建築に用いられ、品質は折り紙つきだ。 ◇ 「万博は県産石材の価値や魅力を国の内外にアピールする好機」 万博での展示に向けて2年がかりで、北島部会長らと日本とブルガリアの両国に働きかけた桜川市の石材加工業、坂口登さん(58)はそう捉えていた。25年5月、ルメン・ラデフ大統領がモニュメントを見学しPR効果も十分得られたが、北島さんも坂口さんも万博後の活用が気がかりだった。万博会場までの運搬費用の一部(約100万円)を負担してくれた桜川市に掛け合うと、制作した協会が寄贈する形で市内に置かせてもらえることに。市観光商工課の担当者は「万博で展示されたモニュメントを受け入れることで、ヘリテージストーンの認知度向上、ブルガリアとの交流を広く発信できる」と期待する。大和駅北公園に「平和のモニュメント」を設置した日本石材産業協会加工部会の北島敏行さん(左)と、坂口登さん=桜川市中泉で2025年12月13日午後3時4分、鈴木美穂撮影 25年12月の夕暮れ時、桜川市中泉の大和駅北公園ではクレーンでつり上げられたモニュメントが6時間がかりで据え置かれた。祈りをささげる巨大な手の後ろで、遊具で遊ぶ幼子の声が響く。立ちあった坂口さんが目を細め、つぶやいた。 「平和が後世も続きますように。そんな数百年先の願いも、石になら託せる」【鈴木美穂】