2025.07.23凪破真名(歴史ライター・編集)tags: ミリタリー, 戦艦, 旧日本海軍, 海上自衛隊, 艦艇(軍艦)指揮を執る司令官などが乗り組み、指令を出す艦艇「旗艦」は、実は現在の海上自衛隊には存在しません。その理由を、「旗艦」の歴史とともに振り返ります。「旗艦」と呼ばれる艦は、海軍艦艇の中で、司令官などが乗り組み、指令を出す役割を持つ艦艇のことです。英語では「フラグシップ(flagship)」といいます。海上自衛隊では、「機関」との混同を避けるためか、「はたかん」あるいは「はたぶね」と読むのが通例です。拡大画像日本海海戦で旗艦を務めた戦艦「三笠」(凪破真名撮影) しかし、現在の海上自衛隊の艦艇には、実は「旗艦」と呼ばれる艦は存在していません。なぜなのでしょうか。 旗艦という考え方がいつ頃生まれたのかは明確ではありませんが、古代地中海でガレー船を駆使して海戦が行われていた時代には、すでに司令官が乗船して他の軍船を指揮する体制が構築されていたと考えられています。 ただ、「旗艦」が正式に登場したのは、軍船が大型化し、「艦隊」を形成するようになった時代だといわれています。複数の機能を持つ船が洋上を行動するようになると、味方同士の衝突や同士討ちといった事故が起こる可能性も出てきました。こうした事故を防ぐには、中心となって指揮・命令を出す艦、すなわち旗艦の存在が不可欠だったのです。 まだ木造船や帆船が主流だった1800年代後半までは、旗艦は艦隊の中で最大の船が務めるのが一般的でした。旗艦はその威容を敵に見せつけ、艦隊の強さを象徴する役割も果たしていました。 旗を掲げて目立たせるのは、味方に「ここに指揮官がいる」と示す目的だけでなく、敵に対しても「この艦隊は統率が取れている」という印象を与える役割がありました。大型の船は攻撃力も高く、司令官が乗るのにふさわしい艦とされていたのです。さらに、通信手段が手旗信号などに限られていた帆船の時代には、旗艦が艦隊の先頭に立つことで、命令を後方の船に伝えることも可能でした。そのためにも、旗艦には視認性と存在感に優れた大型船が選ばれていたという背景があります。【次ページ】旗艦は先頭にたつ艦から後方で指揮を執る艦に【出た時期が遅かった…】これが、旧海軍での旗艦の完成形「大淀」です(写真)