非核証明書なしで米軍艦船が神戸港に入港 後押しした市議の考え

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神戸港に入港した米掃海艦「ウォリアー」=神戸市灘区で2025年3月24日午後1時31分、関谷徳撮影 桜のつぼみがほころび始めた時期だった。3月24日午前9時、神戸港・摩耶埠頭(ふとう)(神戸市灘区)に見慣れない米軍艦船が現れた。全長68メートルの掃海艦「ウォリアー」だ。「米国がいよいよ、つぶしにかかってきたな」。港湾労働者らで作る労働組合団体「神戸港湾関係労働組合共闘会議」の議長、鈴木大介さん(59)は約100人の労働者や市民団体のメンバーらと抗議の声を上げた。寄港の目的は乗員の休息や補給とされるが、鈴木さんは歴史の大きな転換を感じていた。 貿易の玄関口・神戸港には年間6000隻以上の外国船が出入りする。しかし、1975年3月以降、50年間にわたり、米軍の艦船は一隻も入港していない。Advertisement 港を管理する神戸市は、入港する全ての外国艦船に対し、核兵器を搭載していないことを示す「非核証明書」の提出を求めており、「非核神戸方式」と呼ばれる。75年以降、フランスやインドなど核保有国を含む8カ国の軍の艦船21隻が証明書を提出したうえで入港した。98年5月に入港したカナダ軍の補給艦だけは証明書の提出に応じなかったが、「非核兵器国であり、核は積んでいない」との外務省の説明などから市が入港を許した。 戦後、日米間では、核の持ち込みは「事前協議」の対象とされる一方で、核兵器搭載の艦船が日本に寄港することを認める「核密約」の存在が指摘されてきた。また、米国は個別の艦船や航空機に関する核兵器の存在を「肯定も否定もしない(NCND)」政策をとっている。非核証明書の提出はこれに矛盾するため、米軍は神戸港を避けてきた。 では半世紀を経た今なぜ、入港したのか。背景には入港を後押しした神戸市議の存在と、長年かけて神戸港入港を模索してきた米側の執念があった。 「ちょうど5年前から計画していた。50年の節目に入港が実現して本当に良かった」。こう話すのは自民党の上畠寛弘(のりひろ)・神戸市議(37)だ。「日本共産党はじめ左翼達(たち)は、非核神戸方式を金科玉条のように崇(あが)め、神戸港は左翼の聖地となっていましたが、本日終焉(しゅうえん)を迎えました」。X(ツイッター)にこうつづると、1万以上の「いいね」がついた。 上畠市議は、非核神戸方式が日米関係や地元経済の発展の妨げになっていると主張してきた。同僚議員にも賛同を呼び掛け、自民党市議団による市への2025年度予算要望に「非核神戸方式の運用を改めること」を盛り込んだ。市議会の「日米友好議連」の事務局長も務め、「外交や安全保障に関することは国の専管事項。非核神戸方式の存在自体がおかしい」と話す。港湾法は、港の管理権は自治体にあると規定するが、国の権限が上回ると考える。 上畠市議は、米海軍の水上艦や攻撃用潜水艦には一般に核を搭載しないとする公文書を確認。24年12月の市議会で、市側に質問した。「米側が核を搭載していないことは公開情報でも明らか。これを認識しているか」。市側は「情報は把握し、趣旨は理解している」と答えた。この答弁を受け、上畠市議は「入港の地ならしができた」と判断。在大阪・神戸米国総領事館に市側の反応を伝え、「入港するなら今ですよ、という暗黙のメッセージを送った」と語る。 神戸市の内部文書によると、25年2月18日、市は国を通じて、米艦ウォリアー入港の予定を知る。3月7日、外務省に「入港予定の米艦船は核を搭載しているか」と文書で尋ねた。3月13日、外務省北米局は「米国の核政策に基づけば、現時点で核兵器を搭載する米国艦船の我が国への寄港はないと判断する」と回答。「日米安全保障条約の円滑な運用の観点から協力をお願いする」と念押しした。 翌14日には、上畠市議とともにジェイソン・クーバス米総領事が市を訪れ、長谷川憲孝・港湾局長と向き合った。非核証明書なしでの入港の予定を伝え、「基本的な方針としては、海軍の水上艦や潜水艦、航空機には核兵器を搭載していない」と理解を求めた。 これに対し、長谷川局長は「ウォリアーが入港の際には核非搭載だと改めて認識した」と答えた。非核証明書なしでの米艦入港を事実上、認めた瞬間だった。3月17日に米側から市に正式な入港申請があり、18日には非核神戸方式を支持する関係者に情報が伝わる。決議から50年の節目の日だった。 「なぜ米国だけ例外なのか」「今後、本格的な大型艦船が入ってきたらどうするのか」。3月24日、関係者から非難が上がる中、米艦船が入港した。半世紀にわたって守られてきた非核神戸方式。共産党のある市議は振り返る。「私たちにも油断があった」【鵜塚健】