毎日新聞 2025/9/10 07:45(最終更新 9/10 07:45) 1800文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷戦後80年に関する催しで小冊子を基に体験を語った佐野睦子さん=岩手県釜石市で2025年8月3日、奥田伸一撮影 岩手県釜石市の県立釜石高等女学校(現在の県立釜石高校)の2年生になった1944年春、佐野睦子さん(94)の学生生活は一変した。セーラー服と靴はもんぺとげたに変わり、学校ではなく勤労動員された缶詰工場に通う日々。戦争は、ごく普通の女学生の青春を奪い去った。 佐野さんが釜石高等女学校に入学したのは43年4月。真珠湾攻撃を主導した連合艦隊司令長官、山本五十六(いそろく)が戦死したころだったが、戦争の影はまだ薄かった。1学級50人で3クラスあり、敵国の言葉だとして英語の授業こそなかったが、それ以外は普通の授業だった。Advertisement戦時中の1944年に缶詰工場に勤労動員された釜石高等女学校の生徒。佐野さんも作業に汗を流した=釜石市郷土資料館提供 釜石は製鉄所で栄えた「鉄の町」で、佐野さんは鉱山があった山間部に住んでいた。女学校は東に約15キロ離れた製鉄所の社宅そばにあった。通学は鉄道で、貨車の最後尾に連結された客車は学生や通勤客でごった返していた。 戦況の悪化に伴い、戦争に翻弄(ほんろう)される日々が始まった。若い男性が次々と戦場に送られ、労働力不足を解消するため政府は44年3月に勤労動員を閣議決定し、8月には学徒勤労令が公布された。 軍事最優先の世相が、そのまま佐野さんの身に降りかかった。 勤労動員された缶詰工場では、同級生とかっぽう着姿で魚の切り身を缶に詰めた。作業の合間に砂糖入りの袋を破ってなめたことや、おやつに紅茶が出たのが思い出だ。 食料事情は厳しく、佐野さんも家では刻んだ大根や昆布入りのご飯を食べていたが「工場には物資が豊富にあった」と振り返る。 時を同じくして防空演習や軍事教練が始まり、地面に伏せたり、竹やりを突いたりする訓練に励んだ。「戦争に勝つ一心だった」。必死に歯を食いしばって過ごしていた。 交通手段も変わった。鉄道は貨物専用となり、木炭で走るバスに乗った。故障が多く徒歩で帰宅したこともあった。仕事の後、夕暮れの中20キロの道を数時間掛けて歩くのは「疲れと寂しさで泣く思いだった」という。 健康優良児として表彰されたこともあった佐野さんだが、母親は遠距離移動の負担を考慮し、釜石の隣町、遠野(とおの)の女学校への転校を勧めた。校内に寄宿舎があったためだ。釜石の友人と別れることになったが「寂しさはなかった。母の言葉を素直に受け入れた」という。 45年4月、佐野さんは遠野女学校(現在の県立遠野高校)の3年生に編入した。釜石との間にあり、難所で知られた仙人峠を越えると山あいに農地が見えた。 遠野でも勤労動員された。農業試験場で、もみ殻を試験用のマスに入れたり、苗畑の草むしりをしたりした。燃料用の「松根油(しょうこんゆ)」の原料の松を伐採した時は「これで戦車や戦闘機が動くのか」と疑問がわいた。佐野さんの直感通り、各地で取り組みが進められたが実用化に至らなかった。 その年の7月14日。釜石は艦砲(かんぽう)射撃と呼ばれる戦艦の砲撃を受けた。製鉄所一帯が猛攻撃を受けたが、佐野さんの耳には入らなかった。 釜石の惨状は、8月8日に遠野に疎開した釜石高女の同級生から聞いて知った。翌日、佐野さんは女学校の校庭で「ドシーン」と地響きを感じた。後に釜石が2回目の艦砲射撃に遭ったと聞いた。 作業に明け暮れる生活は突然終わった。 8月15日午前、同級生らと畑で大豆をまいていた時だった。先生が「重大発表がある」と告げた。作業を中断し、近くの国民学校の校庭に向かった。ラジオ放送はあまり聞き取れなかったが、佐野さんは「変わったことが起こったのはわかった」と述懐する。 日本の降伏と終戦は女学校に戻って聞かされ、同級生と抱き合って泣いた。日本が劣勢だと感じていたが「悔しくてたまらなかった」。一方で厳しい生活から解放される、とも思った。「短い言葉で表現できる心境ではなかった」と振り返る。 あれから80年。佐野さんは今年4月、知人の依頼で当時の出来事や思いを原稿にまとめ、地元の寺院で開かれた檀家(だんか)らの会合で読み上げた。佐野睦子さんが女学生時代の体験や思いをまとめた「私の少女時代」=岩手県釜石市で2025年9月5日、奥田伸一撮影 その後原稿を製本し、周囲の協力を得て110部作成して知り合いに配った。8月には釜石市主催の催しで原稿を基に講話もした。 当時の自身と同年代の若者が、果たして理解してくれるだろうか――。時の流れに不安を抱きつつ「戦争は女学生をはじめ全国民に影響を与えた。それは後世に伝えたい」。 「私の少女時代」と題した15ページの小冊子には、佐野さんの強い思いが詰まっている。【奥田伸一】【時系列で見る】関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>