自己責任が一般的だが…三重の駐車場浸水は事情が違う?補償の行方

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地下2階で泥水をかぶった乗用車=三重県四日市市のくすの木パーキングで2025年9月19日午後3時16分、渋谷雅也撮影(画像の一部を加工しています)写真一覧 1カ月前の大雨で、三重県四日市市の地下駐車場が浸水し、駐車中の車274台が水没するなどした。駐車場の多くは、自然災害による損害を免責事項としているため、車の被害回復はドライバーの「自己責任」となることが一般的だ。ただ、今回は様子が違うようだ。 9月12日夜、四日市市では記録的な大雨が降った。午後10時14分までの1時間降水量は123・5ミリを観測し、統計開始の1966年以降で最大となった。Advertisement 大量の水が流れ込んだ近鉄四日市駅前の大型地下駐車場「くすの木パーキング」は地下2階が冠水し、地下1階も約1・2メートル浸水した。 県外の観光客や近隣の繁華街を利用する人が駐車していて、地下2階の114台と地下1階の160台、計274台が泥水をかぶるなどした。多くは、修理ができない状態で廃車になるとみられる。未加入多い車両保険 車の補償はどうなるのか。 車の所有者に加入が義務づけられている「自賠責保険」は事故による対人賠償のみが対象で、大雨による被害は適用されない。 一方で、任意の「車両保険」で賄えるケースがある。車両の年式や型式に応じて支払われる金額が決まっており、新車購入時の費用を受け取れる特約もある。 ただ、補償内容を充実させるほど保険料が高くなることもあって、加入率は高くない。長靴を持って地下駐車場に入る車の所有者ら=三重県四日市市浜田町で2025年9月22日午前9時49分、荒川基従撮影写真一覧 損害保険料率算出機構によると、2024年3月時点の加入率は、都道府県別でトップとなる愛知県で59・4%。現場となった三重県は51・9%、全国平均は47・2%にとどまり、半分近くのドライバーは未加入だ。静岡空港、補償は「致しかねる」 台風や大雨などの「自然災害」について、多くの駐車場は車に何かがあっても「責任を負わない」とする約款がある。 9月5日、静岡県牧之原市の富士山静岡空港では、駐車場の一部が冠水し、複数の車両が水没した。台風15号の影響で、空港の運営会社はホームページで「想定を上回る降水量によるものだった」とし、駐車場管理者として「事態を重く受け止めている」とした。 一方で、補償は「致しかねる」。天災地変や不可抗力による損害は免責事項になっていることを理由に挙げ、車両保険での対応を促した。 くすの木パーキングも、静岡空港や他の多くの駐車場と同じような約款がある。 記録的な大雨は不可抗力の自然災害で、補償は車両保険で賄うしかなく、ドライバーの「自己責任」になる――。そんな見立てが大勢を占めていたが、「過失」の発覚で潮目が変わった。3年9カ月前に故障を把握 くすの木パーキングは、四日市市などが出資する第三セクターが建設した市道側と国土交通省が整備した国道側からなる。浸水を防ぐため、車の出入り口の3カ所と歩行者用の出入り口の7カ所に止水板が設置されていた。 大雨から1週間後。国交省三重河川国道事務所は、止水板について、国道側にあった電動式の二つが故障していたことを明らかにした。残る一つは手動式で、人力での稼働が間に合わず、機能しなかったともした。地下駐車場から搬出されるスポーツタイプ多目的車。「進入禁止」を警告する路面付近には浸水を防ぐ止水板が設置されていたが故障中だった=三重県四日市市諏訪町で2025年9月29日午前10時16分、荒川基従撮影写真一覧 国交省の担当者は、3年9カ月前に故障を把握しており、「修理について協議中だった」と説明。必要な対応を怠ったとして、「駐車場の利用者におわびしたい」と話した。 中野洋昌・国土交通相も9月30日の閣議後記者会見で「国交省として重く受け止めている」と述べた。 災害に関する問題に詳しい匠総合法律事務所の秋野卓生弁護士(第二東京弁護士会)はドライバーへの補償は、「予見可能性が争点になる」と解説する。 想定雨量と実際の雨量との隔たり、止水板が機能すれば浸水を防げたのか、被害を回避するための策を検討していたのか……。物理的に浸水を防げなかったとなれば不可抗力となり、ドライバーの自己責任となる。 ただ、今回は施設管理者でもある国が必要な対応を怠ったとしていることから、「ドライバーが補償を受けられる可能性がある」とし、こう続ける。「遅くなれば不安が増すだけ。国は早く判断して対応すべきです」【渋谷雅也】