たくましく働いた炭鉱の女性たち 消えゆく歴史、語り継ぐ92歳

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毎日新聞 2025/10/10 08:00(最終更新 10/10 08:00) 1892文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷炭鉱で働く女性たち=1942年11月撮影写真一覧 戦時中、戦地に赴いた男性に代わって炭鉱(ヤマ)で働いた「女坑夫(鉱員)」たちがいた。戦後にその聞き書きをライフワークとした92歳の女性が今、若手研究者の主宰する会で、ヤマの女性たちを語り継いでいる。炭鉱で栄えた時代を知らない世代が増える中、伝え継ぐ意味とは――。 「『お国のためにならな』といつも口にしていた」。7月下旬、旧産炭地の福岡県鞍手町にある歴史民俗博物館で開かれた「地べたの声を聴く会」。町の元嘱託職員、井手川泰子さん(92)が女性たちのエピソードを語るのを、約20人が聴き入った。参加した北九州市の30代女性は「井手川さんは生き証人」と話した。Advertisement7月下旬に開かれた「地べたの声を聴く会」で、炭鉱で働いた女性たちについて語る井手川泰子さん(左)と、会を主宰する川松あかりさん(右)=福岡県鞍手町で(参加者提供)写真一覧 製鉄や燃料として使われる石炭は、戦時下の重要な戦略物資で、国は石炭の増産を促した。作業の中心を担うはずの男性の多くは出征で不在になり、残された女性たちがツルハシでの掘削や運搬といった作業で坑内に入った。 井手川さんは1973年から、鞍手町を含む福岡県筑豊地域の「小ヤマ」と呼ばれる中小の炭鉱で働いた女性の聞き取りをした。 <坑夫の私らも産業戦士となって、石炭増産に励み、出炭報国を誓いよった時代ですバイ> 話しを聞いた女性たちは80人以上に及んだ。 <若い嫁女がガス爆発で即死しなったと。婿さんは出征中バイ。戦争に行った者は名誉の戦死やが、お国のために増産、増産で繰り込まれて、坑内で死んだ者は何ちゅうかね。なんぼなんでも名誉ちゃ言われんやろ> 方言の語り口そのままの記録をもとに84年、「火を産んだ母たち――女坑夫からの聞き書」(葦書房)を出版した。絶版になったが、井手川さんの知人が出版社に再編集と復刊を要望し、2021年には「新 火を産んだ母たち」(海鳥社)が刊行された。 井手川さんを迎えて「地べたの声を聴く会」を開くのは、九州産業大講師の川松あかりさん(35)だ。筑豊地域で炭鉱の歴史を研究していた大学院生時代に井手川さんと出会い、一緒に過ごしながら「地べたにおれば大丈夫よ」と励まされた。「地べたの声を聴く会」を主宰する九州産業大講師の川松あかりさん=福岡県直方市で2024年8月17日午後5時6分、岡村崇撮影写真一覧 「地べたにいるとは」。自問自答し、いまや直接聞けなくなった炭鉱の女性の声を井手川さんから聞き、参加者同士で意見を交わす場作りを思い立った。新型コロナウイルス禍の中断を挟み2カ月に1回のペースで開き、地域住民や学生などが集まる。 井手川さんの根底には戦争体験がある。44年6月、幼少時を過ごした小倉市(現北九州市)で米軍機B29による本土初空襲に遭った。母親や妹2人と自宅床下の防空壕(ごう)に逃げ込み難を逃れたが、一帯では300人以上が亡くなったとされ、近所の同級生も犠牲に。「生きていることこそが大切」との思いを強くした。 戦災を機に移り住んだ鞍手町(当時の西川村)で知り合ったのがヤマの女性だ。苦労しながら明るくたくましく生き抜いた姿に触れ、その記録を志すのは自然だった。 女性たちは戦後も一部の炭鉱で働いたが、国のエネルギー政策の転換で70年代以降、炭鉱は相次いで姿を消した。筑豊地域も最後の閉山から2026年で半世紀に。地元の博物館などで歴史を伝えるものの、炭鉱や女性たちの働きを知らない世代は増えつつある。 「消えゆく歴史を伝えるのが、生き残った者の務め。女性たちの歴史を一人でも多く伝えたい」と井手川さん。老いを重ねる中で、伝承に関わる川松さんを「頼りになる存在」と語る。川松さんは「日本の近代化を支えた女性たちの話に触れ、現代の自分たちの生き方を考える機会になれば」と話す。 次回で40回となる「聴く会」の日時は未定。問い合わせは川松さん(080・5386・4883)女性たちの姿、絵本にも 炭鉱で働く女性の聞き取りをまとめた井手川泰子さん(92)の著書「新 火を産んだ母たち」(海鳥社)は今夏、再構成され絵本で出版された。井手川さんよりも若い世代が「100年先も読み継がれていく物語に」との思いを込めた。「絵本 火を産んだ母たち 女坑夫のおはなし」=2025年10月6日午前11時26分、岡村崇撮影写真一覧 「絵本 火を産んだ母たち 女坑夫のおはなし」は、福岡県小竹町にある絵本専門の出版社「或る書房」の編集者、喜久(きく)たみさん(47)が、井手川さんの著書を再現した芝居を見たのをきっかけに構想を膨らませた。井手川さんに出版を持ちかけた際、「この歴史を残したいという思いが伝わればうれしい。(構成は)あなたの感性に任せる」と声をかけられたという。 絵は福岡県直方市を中心に活動するイラストレーターが担当し、2年かけて製作。喜久さんは「過酷な状況で働き、生き抜いた女坑夫の生々しい言葉を多くの人に知ってもらいたい」と話した。 B6判96ページ、1760円。或る書房(0949・66・8021)【岡村崇】【時系列で見る】関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>