写真はイメージ=ゲッティ 新年度を迎え、街を歩けば真新しいスーツに身を包んだ新入社員たちの姿がまぶしく映る。 その足元は革靴、パンプスが主流だ。 しかし、そうした服装はしばらくしておらず、普段はカジュアルな上下にスニーカーなどで過ごすビジネスパーソンも少なくないのではないか。 革靴業界の関係者が最近の苦しい事情を打ち明ける。 「大学生は就職活動の時に1足目を買ってくれますが、実際に就職して職場に慣れてからはオフィスカジュアルなスニーカーに履き替えてしまう。リピートがないのです」Advertisement革靴離れ、パンプス離れ写真はイメージ=ゲッティ 民間調査会社の矢野経済研究所によると、2024年度の国内靴・履物小売市場規模は前年度比100・8%の1兆2367億円と推計される。 新型コロナウイルス禍が本格化した20年度以降、市場全体は増加傾向が続いているが、その内訳には変化が生じている。 まず、全体に占めるスポーツシューズ(スニーカーを含む)の割合はコロナ禍前の19年度が51・1%だったのに対し、24年度は58・0%に増えた。 一方で、紳士靴は19年度の12・5%から24年度は11・0%に、婦人靴は19・3%から16・1%に減った。 研究所はこの傾向を「ビジネスシーンのカジュアル化による革靴離れ、パンプス離れの長期的傾向」と分析する。クールビズ、コロナ禍が決定打 日本航空は25年11月、グループ6社の客室乗務員や空港スタッフ約1万4000人を対象に、従来の革靴やパンプスに加えスニーカーの着用も選べるようにした。 「3センチ以上」としてきたパンプスのヒールの高さに関する規定を20年に撤廃した後も現場から寄せられ続けた「靴の選択肢を増やしてほしい」という声に応えた形だ。写真はイメージ=ゲッティ また、革靴メーカーのリーガルコーポレーションは今年2月、約100年の歴史を持ち、高い技術力で知られた新潟県加茂市の生産子会社の操業を停止した。 足が疲れるなどして働きづらいといった事情もあるが、文化学園大の田中里尚教授(ファッション社会学)は、革靴が失ったのは「記号としての力」だとも指摘する。 「『人を見るときは靴を見ろ』という言葉があったように、革靴はある種の社会的な記号でした。例えば男性用は(爪先に一直線の縫い目が入った)ストレートチップが最もフォーマルで、(爪先に縫い目がない)プレーントウなどが続く格の違いがありました。しかし、今の若い世代にとってそうしたものは希薄になっています」 田中教授は著書「リクルートスーツの社会史」でスーツの変遷を追った。 革靴もスーツ文化の衰退と同じ流れにあるといい、「(政府がノーネクタイなどの軽装を促す)クールビズや、コロナ禍で定着したリモートワークなどにより、革靴やスーツの着用を前提とした企業の慣習が変容しました」と語る。「見せ方で革靴ブーム起こるかも」 「革靴離れ」には伏線がある。 1970年代に合成皮革が一般化し、80年代には旧国鉄が分割民営化された。写真はイメージ=ゲッティ 駅構内の靴磨きは激減し、自分で手入れをすることが当たり前になった。 それでも90年代には革靴ブームがあったが、00年代にクールビズが定着した頃から「完全な転換」が起きたと田中教授はみる。 そして年月を重ねるにつれ、革靴離れは加速していった。 「カジュアルな服装が当たり前の世代が増えてくると、それが社会のスタンダードになっていくということです」 一方で、革靴が完全に淘汰(とうた)されるわけではなく、革靴には革靴の良さがあると田中教授は指摘する。 「革靴はサステナブル(持続可能)な履物です。手入れをすれば数十年も使え、今の時代に即しているともいえます。見せ方を工夫すれば、ブームが起こるかもしれません」【隈元悠太】