児童のいじめ 被害者の「大丈夫」は本当? 先生の聞き取りに課題も

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春田久美子弁護士=福岡市で2025年7月16日、近松仁太郎撮影 児童や生徒が心身の苦痛を感じて被害を訴えた場合は、事案の継続性などは関係なく、先生は全て「いじめ」とし、対応しなければなりません。スクールロイヤーの春田久美子弁護士は、いじめの内容を確認する過程でも多くの課題があると指摘します。問題が起きた際、事実をどう聴き取り、記録を残せばよいのかを春田弁護士に聞きました。【聞き手・近松仁太郎】 ――いじめなどが起きた時、まず先生がしなければいけないことは何でしょうか。 ◆いじめを受けたとされる側と、いじめたとされる側の双方からじっくりと話を聴くことに尽きます。これは意外と簡単ではありません。互いの主張が食い違ったり、被害者がうまく話せなかったりするケースも多いからです。具体的なケースを挙げますね。Advertisement 小学校の教室で5年生の男児が、同級生の男児にヘッドロックをかけていました。別の児童から連絡を受けた担任の先生が慌てて止め、その場で2人から話を聴きました。被害者とみられる男児は「嫌だった」と訴え、加害者とされる男児は「技をかけていただけ」と笑顔で被害児童の肩を組みます。その後、被害児童は「やっぱり大丈夫です」と言って口を閉ざしてしまいました。 ――被害児童には納得のいかない部分がありそうですね。 ◆被害者が言う「大丈夫」という言葉には注意が必要です。先生は、加害者とされる児童の目の前で、被害児童から話を聴き取っていました。これでは真実は聴き出せません。いじめの背景には、クラス内での力関係、いわゆる「スクールカースト」が影響していることが多くあります。力が強く、発言力のある子の前で、そうでない子は真実を語れず、口をつぐむことが少なからずあるのです。聴き取りをする際は必ず、双方の当事者から個別に聴くことが重要です。 ただ、個別に聴いても、いじめた子からの報復を恐れ、うまく話せない子もいます。話す様子などに少しでも疑問を感じた場合は、しばらく様子を見たり、別の先生に協力を仰いで話を聴き出してもらったりすることも有効です。保健室の養護教諭や、部活動などで普段から接点がある先生の方が話しやすいこともあります。 ――他に注意すべきことはありますか。 ◆記録の残し方です。基本は、起こった出来事を時系列に沿って淡々と書くこと。問題となった発言は「ですます調」も含めてできる限り、ありのままを記録してください。また、聴き取りをした先生自身の受け止めや評価は区別します。主観と客観がごちゃ混ぜになると、事実が何だったのかが曖昧になり、誤った判断につながる危険性もあります。 ――丁寧に聴き取りをしても、話が食い違うことはあります。 ◆そういった場合に「すり合わせができない。これ以上は指導できない」と諦めてしまう先生を多く見てきました。「学校は捜査機関ではなく、白黒をつけるべきではない」と話す先生もいました。でも、本当に対応を止めてしまって良いのでしょうか。 被害が真実だった場合、勇気を振り絞って訴えた子は「学校や先生は何もしてくれない」と絶望してしまうかもしれません。加害者は「何をしても、認めなければ大丈夫」と誤った認識を持ってしまう恐れもあります。 社会に出れば、今回のケースにあった「技をかけただけ」のような理不尽な言い分は通用しません。経緯を丁寧に聴き取った上で、そうした言動が相手を深く傷つける場合もあるということを粘り強く指導する必要があると思います。記録を残す際のポイント ▽起きたことを時系列に沿って、事実を正確に記録 ▽発言内容はできる限り、ありのままを記載 ▽聴き取った先生の主観や評価は事実と区別し、ごちゃ混ぜにならないように注意。感想や個人の見立てを書き添える時は、誰の意見かを明確に