赤田康和2025年11月19日 7時00分海賊版サイトのトップページ。画像を加工しています=原告側弁護団提供 漫画の「海賊版サイト」で出版社などが受けている被害は、推定で年間8・5兆円に上る。さまざまな対策が行われてきたが、「いたちごっこ」の側面は否めない。 対抗策の一つとして、日本の大手出版4社は2022年、米国のIT企業「クラウドフレア」に計4億6千万円の賠償を求めて提訴した。同社は海賊版サイトの運営者ではないが、サイトの配信を手助けすることで違法行為に加担した、と原告側は主張してきた。3年半をこえる審理をへて、東京地裁(高橋彩裁判長)は19日の判決で、どんな判断を示すのか。1カ月の閲覧「14億冊」 出版社などでつくる一般社団法人ABJは今年6月、日本の漫画を違法に複製した約900のサイトを分析。世界中のユーザーが「ただ読み」をしている実態が明らかになった。 およそ半数のサイトで英語が使われ、次いで日本語のサイトが144、中国語が57、ベトナム語が56に上った。スペイン語、ロシア語、タイ語のサイトもそれぞれ30を超えた。漫画の中の言語も各国語に翻訳されているケースが多かった。 国別でサイトへの滞在時間をみると、1カ月あたりでインドネシアのユーザーが約9200万時間、日本が約9千万時間、米国が約8100万時間、インドが約3900万時間だった。 こうした「ただ読み」による1カ月間の総閲覧冊数は14億冊。被害額は7048億円で、年間では8・5兆円に達すると推計された。 正規版の漫画の市場規模である7043億円(2024年)の12倍にも上り、「想像を超える大きな被害」とABJの担当者は危機感をあらわにした。「終わりのないモグラたたき」 海賊版には官民が連携して対策を講じてきたが、「決め手」を欠く状態が続いている。 2020年には改正著作権法が施行され、海賊版コンテンツへのリンク情報を集めた「リーチサイト」の運営者に刑事罰を科せるようになった。 2021年からは、ユーザーが海賊版と知りながらダウンロードする行為を違法とし、継続・反復的に行う場合は2年以下の拘禁刑などを科せるようにした。 ただ、海賊版サイトはダウンロードせずにブラウザー上で読める「オンラインリーディング型」も人気で、ダウンロード違法化だけでは効果は限られる。 また、海賊版サイトの運営者は海外に拠点を持ち、手口が巧妙化している。国境を超えて匿名で利用できるサービスを活用するほか、インターネット上の住所にあたるドメインを次々と変える「ドメインホッピング」を駆使する。 日本の出版社など権利者側は、現地警察や裁判所を通じて法的措置をしてきたが、「終わりのないモグラたたき」を強いられてきた。被告は運営者ではないが こうしたなか、今回の大手出版社4社による訴訟は、海賊版サイトの運営者ではなく、その配信の「手助け」をする企業の責任を問うものだった。 被告の米国IT企業「クラウドフレア」が提供するサービスは「コンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)」と呼ばれる。 インターネットは、日本国内のユーザーが海外のサイトにアクセスしようとすると、通信速度が遅くなり、コストも高くなる。 CDNは元のサイトのサーバーから送信されたデータを複製(キャッシュ)し、ユーザーに近いサーバーから配信する。サイトにアクセスしやすくし、通信コストも抑えられる効果がある。 クラウドフレアのサービスは2021年12月時点で、月間アクセス数上位10の海賊版サイトのうち9サイトが利用していた。クラウドフレアはサービス利用者の身元確認が不十分などと政府の検討会議で指摘されたこともある。海賊版であると権利者側が通知しても海賊版サイトとの契約を続け、配信も止めなかった。 こうした実態から、原告側4社はクラウドフレアの法的責任は大きいと主張。海賊版サイト単独では配信能力に限界があるなか、世界各国にサーバーを持つクラウドフレアがサイトの運営を成り立たせてきたのであり、著作権侵害の責任を負う――。原告の4社は裁判でこう訴えてきた。 出版社側の代理人を務める福井健策弁護士は「海賊版サイトは、匿名化やドメイン変更によって巧みに摘発を逃れてきた。出版社側が勝訴することで、クラウドフレアが海賊版サイトの配信を停止するならば、対策の大きな一歩となる」と話す。【11月25日まで】全記事が読み放題のコースが今なら2カ月間無料!詳しくはこちらこの記事を書いた人赤田康和大阪社会部|災害担当専門・関心分野著作権法などの表現規制法制とコンテンツ流通、表現の自由こんな特集も注目ニュースが1分でわかるニュースの要点へ11月19日 (水)日本生命、役員ら減給処分日経平均、5万円割り込む日中、平行線の主張11月18日 (火)日本と中国、局長級協議へ1年半ぶりのマイナス成長戦争死者 376万人と推計11月17日 (月)電気ガス補助 月2千円以上高市内閣支持率、69%暗号資産を金融商品に11月16日 (日)「非核三原則」見直し検討へ中国、日本渡航自粛呼びかけ東京都、宿泊税引き上げ検討トップニューストップページへ解決の糸口見えぬ日中関係 パイプ役不在の日本、「優位」演出の中国21:03DIC川村記念美術館のモネ「睡蓮」 ニューヨークで70億円で落札5:00新型AI「Gemini3」、グーグルが発表 「ツールから相棒に」1:00娘を殺した犯人から届いた「4万2千円」 賠償がもたらす新たな葛藤7:00引き揚げ女性の救済か、「純血」維持か 中絶執刀医「水際で止める」6:00子どもの「男はスカートだめ」にどう返す? 説教くさい「正解」の罠6:00