原付きツーリングのはずが… 変わる「令和の暴走族」の実態

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神奈川県平塚市の国道で、赤信号を無視してバイクで走る暴走族のメンバーら。大半はヘルメットをかぶっておらず、ナンバープレートは見えなくしていた=2024年7月24日撮影(神奈川県警提供)写真一覧 減少を続けていた暴走族が、形を変えて再び増加の兆しを見せている。 かつて不良漫画の舞台にもなった神奈川県では、ここ5年で構成員が倍増した。加入のハードルが低くなり、暴走族と知らないまま参加しているケースもあるという。 何気ないきっかけで事件に巻き込まれた少年の体験から、「令和の暴走族」の実態に迫った。「ツーリング感覚」で参加 何台ものバイクの爆音が響く、神奈川県内の幹線道路。昔のような大型の改造車ではなくスクーターだが、乗っているのは県警が暴走族として取り締まりの対象とする少年たちだ。Advertisement 県内の少年(17)は、16歳になった時に原付き免許を取得した。神奈川県内の道路を集団で走る暴走族=神奈川県警交通捜査課提供写真一覧 学校や仕事終わりの地元の友達と一緒に、近くの峠を原付きで走り、山中の駐車場でたわいもない会話をして戻ってくる。そんな日常だった。 暴走や犯罪行為はせず、あくまでも「ツーリング」の感覚で楽しんでいたという。 2024年9月、駐車場で居合わせた先輩から「バイクで走っているならグループに入った方がいい」と言われ、一方的にLINE(ライン)のグループチャットに参加させられた。 後で分かったが、この先輩は暴走族のリーダーだった。「殺されるかもしれない」 「話し合いするから全員集まって」。11月、このリーダーからメッセージが届いた。別のチームと会って話をするのだという。 少年は言われるがままに、グループの数人で河川敷へ向かった。「よく分からなかったけど、先輩の言うことだから断れなかった」少年が集団暴行を受けた河川敷に置かれたパイプ椅子を指さす父親。少年は20分間にわたって殴られるなどした=神奈川県内で2025年7月4日午後4時25分、横見知佳撮影写真一覧 夜中に真っ暗な河川敷に着くと、相手チームの約20人に囲まれた。理由も分からないまま、河原に置かれていたパイプ椅子などで全身を殴られた。 何度も蹴られ、顔も踏みつけられた。「殺されるかもしれない」。20分もの間、必死にうずくまり、暴行が終わるのを待った。 誰かが通報したのか、パトカーの赤色灯が近づいてきた。少年のけがは全治約2週間。相手は全員逃げたが、後に傷害容疑で4人が書類送検された。 暴行された理由は、グループのリーダーが相手チームに因縁をつけたということだった。無関係の少年も「グループのメンバー」として報復を受けた形だ。PTSDで今も通院 実は少年のグループは県警に暴走族と認定されており、自身も事件によって「構成員」と判断された。 事件後は恐怖で家から出られなくなり、勤めていた建設会社も辞めた。顔や体の傷は治ったが、フラッシュバックに悩まされている。 「地元が同じなので、どこで誰に会うのかわからない。バイクのエンジンを吹かす音が聞こえてくると怖い」 寝ていても、暴行された場面が夢に出てきてうなされる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、今も通院を続けている。 少年の父親(54)は「加害者たちは謝罪もしてこない。息子の元の生活を返してほしい」と憤る。 加害者側のチームは相次いで暴行事件を起こしていたとみられ、父親は「警察は厳しく取り締まってほしい」と訴える。増加に転じた構成員数 現代の暴走族は、かつてのように派手な「特攻服」ではなく、多くがラフなTシャツや短パン姿でスクーターを乗り回す。暴走族構成員の推移写真一覧 神奈川県警によると、交流サイト(SNS)などを使い、バイクに乗る若者に暴走族が声をかけて勧誘する手法は増えている。少年のように、暴走族と知らないまま事件に巻き込まれる例も目立つという。 暴走族の構成員は、ピークの1980年代は全国で4万人以上が確認されていた。 その後は、取り締まりの強化や少子化の影響で減少。新型コロナ禍もあって2020年に過去最少の5714人となったが、24年は5880人に微増した。 神奈川に限ると、同期間で540人から1031人と約2倍に急増。県警は横浜、川崎、相模原の各政令市を中心に約20グループの活動を把握している。トクリュウの供給源に? 神奈川は以前から暴走族が多い地域として知られ、横浜や湘南地域は不良少年たちを描いた漫画の舞台にもなってきた。「暴走族諸君に告ぐ 迷惑です!」と呼びかける道路の情報板=横浜市で2025年6月17日、横見知佳撮影写真一覧 県警は「暴走族といえば神奈川というイメージを少年たちが共有しているのに加え、集団で走りやすい工業地帯や臨海部の幹線道路がたくさんあるため、構成員が多いのではないか」と分析する。 さらに、新型コロナ禍が収束して外出の機会が増えたことも、増加と関連している可能性があるという。 近年は暴走族が「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の人的供給源になっている可能性もあり、捜査当局は警戒を強めている。 県警暴走族対策室は「チーム名を隠す場合も多く、昔と比べて潜在化している。誘われても入らず、困ったら警察に相談してほしい」と呼びかけている。【横見知佳】