映画の推し事毎日新聞 2025/10/19 22:00(最終更新 10/19 22:00) 3117文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社 9月19日に劇場公開された劇場版「チェンソーマン レゼ篇」が、好調だ。無双状態だった劇場版「鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来」から週末動員ランキングトップの座を奪取し、10月13日時点で4週連続1位をキープ。封切りから25日間で観客動員数374万人、興行収入57億円超を記録した(興行通信社調べ)。 さらに、米津玄師による主題歌「IRIS OUT」が、オリコン・Billboard JAPAN観測史上、史上最速でのストリーミング1億再生を突破する快挙を達成。米国最大級の漫画・アニメの祭典「ニューヨーク・コミコン」でもパネルディスカッションが催され、盛況となった。Advertisement 公開から1カ月を経てますます勢いを増す劇場版「チェンソーマン レゼ篇」、その理由を<少々ネタバレあり>で分析したい。劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社悪魔とデビルハンターの戦い描く 「チェンソーマン」は1990年代の架空の日本を舞台に、根源的な恐怖を宿す悪魔が跋扈(ばっこ)する世界で秩序を守るデビルハンターたちの戦いを描いた作品だ。悪魔はそれぞれに「●●の」という恐怖対象を名に冠し、人々に恐れられるほど強力になる。 例えばトマトの悪魔よりゾンビの悪魔の方が強い、といった具合に。そんななか、チェンソーの悪魔であるポチタと契約した少年デンジは、世にも珍しいチェンソーマンに変身できるように(人間が悪魔と契約すると寿命や身体の一部を失うなどの代わりに特殊能力を使えるようになったり、人間の死体を悪魔が乗っ取った魔人という存在がいたりするが、デンジはイレギュラー扱い)。 彼は公安のデビルハンターであるマキマに拾われ、新米デビルハンターとして最恐最悪の「銃の悪魔」の討伐にあたる――といったのがざっくりしたストーリーだ。 その中で「レゼ篇」はテレビシリーズ第1期の続きとなり、デンジがレゼという少女に出会い翻弄(ほんろう)されるさまが描かれる。劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社描写も展開も過激な少年漫画 「チェンソーマン」は少年漫画ではあれど、画面が真っ赤に染まるような血みどろアクションや、極貧生活を送っていたため欲望に弱いデンジをはじめとするぶっ飛んだキャラクター、重要キャラクターがあっけなく死ぬ容赦のない展開などなど、過激性が特徴の作品。 と同時に、さまざまな謎をあえて説明せず、読者の考察合戦をあおるようなハイコンテクストなアプローチで知られている。大きなところでいうとデンジの過去は? チェンソーマンの正体は? 不穏な動きを見せるマキマの目的とその能力の真相は?などなど……。 さらに、原作者の藤本タツキがシネフィルであることからコアな映画ネタが無数に盛り込まれている(アニメ版でもそれを引き継ぎ、オープニングアニメは「ビッグ・リボウスキ」や「アタック・オブ・ザ・キラートマト」「悪魔のいけにえ」に「レザボア・ドッグス」などなどのオマージュがみられる) 。 そういった意味では、「チェンソーマン」は王道の少年漫画に対するカウンター的作品であり、約束事をなぎ倒す“邪道”的要素に面白さがある作品といえるだろう。劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社エモい味付け ビギナーにも配慮 そんな中で、「レゼ篇」はボーイ・ミーツ・ガール的なラブストーリー含めて、共感性が高いエピソードとなる。いわば邪道の王道とでも言おうか、徐々に明らかになるレゼの正体と過去、切ない本音と悲劇的な幕切れも含めて、感情を動かされやすい“エモい”味付けがなされており、「チェンソーマン」の中では異端の存在だ(ちなみに藤本は「人狼 JIN-ROH」にインスパイアされたと明言している)。 逆に言えば、続き物の漫画の中でも別個のものとして独立させられるキリの良さ、一気に見せることで切なさが増す構造などなど、ドラマ曲線においても映画向きのエピソードであり、「レゼ篇」をTVアニメの2期ではなく劇場版とした製作陣の慧眼(けいがん)が光る。 原作ファンに人気のエピソード&キャラを映画に“格上げ”しつつ、「チェンソーマン」自体のビギナーであっても本作で初登場するレゼを中心に見ていけばついていける敷居の低さが、ファン向けに終わらないヒットぶりに貢献しているのではないか。劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社運命の女 細やかに表現 そうした特性を強化すべく、「レゼ篇」では声を当てた上田麗奈の小悪魔的な演技含め、さまざまな創意工夫が感じられる。静止画の連続である漫画では表現しきれない細やかな仕草(うなずき方や首を傾ける角度、髪の触り方、座るときの距離の詰め方に手つきなど)が滑らかかつ生々しく描かれ、レゼの運命の女(ファム・ファタル)としての解像度が存分に高められている。 映画館はしごデートなど、デンジが憧れるミステリアスなマキマとのギャップも強調されており、2人の間で右往左往するデンジの心情がより受け入れられやすくなった印象を受ける。劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社ロマンチックな場面とホラーな落ち ただ、「チェンソーマン」ファンからするとこんな甘い展開が続くはずがないと予想が働くはず。後半に用意された怒濤(どとう)のバトル展開につながる導火線のように、不穏さを徐々ににじませていくのも「レゼ篇」の巧みな部分だ。 キャラクターの造形をさらに作り込んだのちは、「夜の教室やプールで遊ぶ」「花火をバックにキスをする」「海辺で語らう」といったロマンチックなシーンを静謐(せいひつ)な映像と流麗なカメラワーク、牛尾憲輔による叙情的な劇伴で盛り上げつつ、学校シーンには謎の暗殺者を登場させてサスペンスに仕立て、花火のシーンでは舌をかみちぎるホラー展開で突き落とし、海辺のシーンでは悲恋を感じさせる。 甘さに必ず苦みやえぐみを盛り込む構造が効いており、ロマンスが高まるほどにある種の恐怖が色濃くなるのだ。劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社映画館に特化した超速バトル 「レゼ篇」が映画というフォーマットに合っている理由は、静の前半と動の後半のコントラストにもある。前述の通り布石を配置しつつも、レゼの正体が明かされた途端テイストが一気に変わり、苛烈なバトル展開に。 名ゼリフとして親しまれている「俺が知り合うおんながさあ!! 全員オレん事殺そうとしてんだけど!!」を皮切りに、デンジとレゼのピュアラブがチェンソーマンと爆破攻撃を得意とするボムによるアクションに化け、台風の悪魔やサメの魔人、天使の悪魔などなどが入り乱れた天災級の死闘が繰り広げられる。 「レゼ篇」の物語展開は原作準拠ではあるが、戦闘シーンの尺が大幅にパワーアップしているのもポイントだ。ド派手な爆発シーンと目にもとまらぬスピーディーなカメラワークなどなど、ラージフォーマット上映にも耐えうる“劇場映え”な怒濤の映像ラッシュとなる。 正直、デンジとレゼの動きが速すぎて追えないレベルに設定されており、スマホやPCでの視聴では何が起こっているのか完璧には視認できないだろう。ある意味で強気な、映画館での鑑賞のみに特化した体験型のスペクタクルは、本作の挑戦であり大きな武器だ。通常スクリーンでは飽き足らず、IMAXや4Dと形式を変えて楽しむリピート鑑賞にも向いている。劇場版「チェンソーマン レゼ篇」Ⓒ2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト Ⓒ藤本タツキ/集英社劇場へと導く高品質と希少性 「国宝」や「8番出口」など、今年のヒット作に無理やり共通項を挙げるとするなら、題材的にいわゆる大衆性の逆に位置するものであっても「映画館でしか本領を発揮できない」体験が保証されている部分といえるのではないか。 ただクオリティーが高いだけでなく、そこに希少性が伴うことで劇場に足を運ぶ理由ができる――。 劇場版「チェンソーマン レゼ篇」には、“人気漫画の映画化”以上の確固たる理論があるように思えてならない。(SYO)【時系列で見る】【前の記事】元コピーライターが見た「おーい、応為」 江戸時代の父娘クリエーターが示した真の“命がけ”関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載現在昨日SNSスポニチのアクセスランキング現在昨日1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>