東京高裁の決定後、報道陣の取材に応じる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の福本修也弁護士(中央)=2026年3月4日午前11時10分、東京都千代田区、藤原伸雄撮影 高額献金の勧誘などをめぐり、文部科学省が求めた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令請求について、東京高裁は4日、教団に解散を命じる決定を出した。決定要旨の全文は次の通り。 第1 認定事実 1 韓国家庭連合及び文鮮明等の活動 旧統一教会の教義の創始者である文鮮明は、昭和29年に韓国において教団(現在の韓国家庭連合)を創立し、昭和33年に日本において布教を開始した。韓国家庭連合は、韓国の首都ソウルから約60キロの場所(清平湖の近く)に本拠地を置いており、同所には、天正宮博物館や天苑宮と呼ばれるドーム形屋根の付いた宮殿様の建物、信者のための修練施設、宿泊施設、教育施設、病院、飲食店、百貨店、2万5千人収容のホール等が存在する。 文鮮明は、世界各国で、複数の組織や財団を設立し、布教活動にとどまらず、国際的な政治活動、教育施設等の運営、リゾート施設の買収・開発・経営、「国際ハイウェイ構想」を実現するための活動等、多額の出費を要すると考えられる様々な活動を行っていた。文鮮明の死後は、その妻であり、韓国家庭連合の総裁を務める韓鶴子(ハンハクチャ)が、これらの活動を引き継いで継続している。 2 旧統一教会の献金収入や海外送金の状況等 (1)旧統一教会の収入は、信者からの献金が97%以上を占めている。旧統一教会の収入を含む予算は、会長等の責任役員で構成する責任役員会等の承認により決定される。 旧統一教会の献金収入の予算額は、後述するコンプライアンス宣言後の2010年以降も、それまでとほぼ同水準の500億円前後で推移し、15年度から17年度までは400億~420億円程度まで下がったものの、18年度以降は500億円前後に戻り、22年度にはコンプライアンス宣言前を超える560億円となっている。 (2)旧統一教会は、毎年、海外宣教援助費を予算計上しているところ、その額は、00年前後頃には、年間の運営費の5割から6割程度(100億円程度)を占めていた。 18年度から22年度までの海外送金額(海外宣教援助費以外の名目での支出も含まれる)は、年に約83億~約179億円である。その主な送金先は韓国であり、韓国への送金額が海外送金額全体の9割を超えている。 (3)文鮮明は、日本の行くべき道について、「日本は世界の母親として、たとえ飢えたとしても世界の国々を保護し、経済的援助をして育てていくのです」との方針を示し、文鮮明や旧統一教会の会長等の幹部は、信者に対し、「借りてでも天に捧げようとする心がなくてはならない」、「死ぬようなことがあっても万物復帰をすることに合格しなければならない」、「昼食一食分にも満たない献金をするのでなく、自分の生命、全財産にも当たるすべてを捧げるのです」、「無理なくしては(万物)復帰はできない」、「この世的に見れば最悪でも、天的に見れば最善のことなのです」、「脅迫であっても真の愛を毎日飲める人をつくれば、神はよくやったと言われるでしょう」等と説いていた。文鮮明は、旧統一教会の会長に対し、日本からの金銭拠出が少ないことを叱責(しっせき)することがあった。 3 旧統一教会の信者らによる不法行為 旧統一教会は、日本の信者らが無理をしてでも世界の国々のために経済的援助をすべきであるとする文鮮明(その死後は韓鶴子)の前記方針を踏まえ、旧統一教会の献金収入を増大させるとともに、韓国家庭連合の資金を含む文鮮明(その死後は韓鶴子)の活動資金を獲得する目的で、旧統一教会の会長等の幹部の承認の下、信者らに対し、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法・態様による勧誘では達成できないような数値目標を定めて献金や物品の購入の勧誘を行うよう求めた。その際、旧統一教会の会長等の幹部は、信者らが、その数値目標を達成するため、不法行為に該当する献金等の勧誘を行うことを、少なくとも未必的に容認した。 その結果、信者らは、旧統一教会によって定められた数値目標を達成するため、1973年3月以降、全国で、勧誘の対象となる者(対象者)に対し、①旧統一教会であることを秘し、「先祖の因縁」などと害悪を告知して対象者の不安をあおるなど、対象者の自由な意思を制限し、適切な判断をすることが困難な状態に陥らせた上で、献金等を勧誘したり、②対象者やその親族の生活の維持に支障が生じることになるような過大な献金等を勧誘したりするなどの不法行為を行った。 4 2009年のいわゆるコンプライアンス宣言後の状況 (1)09年2月、信者らによる印章の販売について特定商取引法違反の疑いで強制捜査される事態となったことを受け、旧統一教会は、全国の教会指導者に対し、いわゆるコンプライアンス宣言を発出し、信者らに前記3①、②のような行為等を行わないよう指導することを求めるとともに、その後、コンプライアンス宣言を踏まえた一連の対策を執った。 (2)前記3のとおり、信者らにより不法行為が行われてきた根本的な原因は、旧統一教会にある。したがって、旧統一教会としては、信者らにより不法行為が行われてきた根本的な原因が旧統一教会にあることを認めた上で、[1]信者らによる不法行為を防止するための具体的かつ実効性のある措置を執るとともに、[2]より根本的な対策として、信者らが社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法・態様による勧誘を行った場合に達成することの可能な献金の金額を把握した上、献金の数値目標をその金額にまで下げるとともに、数値目標達成に向けた信者らに対する心理的圧迫を緩和するための具体的かつ実効性のある措置を執るべきであった。 ア しかしながら、旧統一教会は、前記(1)の対策を執る一方で、コンプライアンス宣言後も、子孫の不幸の原因(因縁)は、地獄で苦しんでいる先祖にあり、先祖を地獄の苦しみから解放して天国に引き上げる「先祖解怨」を行う必要があるとして、全国の教会指導者に対し、信者らに先祖解怨のために必要な高額の献金を完納するよう働きかけることを求めていた。また、旧統一教会は、コンプライアンス宣言後、信者の経済状態に比して過度な献金とならないようにするための具体的かつ実効性のある措置を執っていない。さらに、旧統一教会が全国の教区・教会における対策の推進状況を評価するために導入したKPIと称する評価指標においては、信者らによる不法行為を防止するための対策よりも、民事訴訟等の件数を減少させるための対策により多くの点数が配分されていた。そうすると、旧統一教会がコンプライアンス宣言後に執った対策は、信者らによる不法行為自体を防止することよりも、解散命令の請求等の事態に発展することを防ぐため、民事訴訟等の件数を減少させることにより問題を顕在化させないことに重点を置くものであって、前記[1]の措置としては不十分なものであったと評価せざるを得ない。 イ 旧統一教会は、コンプライアンス宣言後も、責任役員会等による献金収入の予算額の決定を通じて実質的に献金収入の数値目標を定め、全国の教会指導者に対し、割り当てられた献金収入の数値目標を達成するよう求めていた。旧統一教会は、献金収入の予算額を決定するに当たり、前記[2]の措置を執ったとの主張立証をしていない。実際、旧統一教会の献金収入の予算額は、コンプライアンス宣言後の10年以降も、それまでとほぼ同水準で推移し、22年度にはコンプライアンス宣言前を超える560億円となっている。そうすると、旧統一教会は、コンプライアンス宣言後、前記[2]の措置を執らなかったと認められる。 (3)信者らは、コンプライアンス宣言後も、旧統一教会から、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法・態様による勧誘では達成できないような献金収入の数値目標を達成するよう求められ、15年度から21年度までの間、この要求に答えて、献金収入の予算額(すなわち目標額)の8割から9割程度の額(年に331億~499億円)の献金を集めることに成功している。そして、信者らは、献金収入の数値目標を達成すべく献金の勧誘を行いつつ、民事訴訟等の件数を減少させることにより問題を顕在化させないようにしていたと考えられる。実際、確定判決や訴訟上の和解により、コンプライアンス宣言後に信者らによって不法行為に該当する献金等の勧誘が行われたと確実に認められる事案は少ないが、その可能性が相応に認められる事案や、その可能性が否定できない事案が発生している。 そうすると、信者らは、コンプライアンス宣言後も、旧統一教会によって定められた献金収入の数値目標を達成するため、不法行為に該当する献金の勧誘を継続して行っていたものと認めるのが相当である。 (4)旧統一教会の会長等の幹部は、コンプライアンス宣言後も、前記(2)[1]の措置を十分に執らず、また、前記(2)[2]の措置を全く執らず、責任役員会等において、コンプライアンス宣言前と同水準の献金収入の予算額を決定し続けたものであるところ、これは、この間に相当多額の海外送金が継続されていたことも併せ考慮すると、旧統一教会の献金収入、ひいてはこれを原資とする文鮮明(その死後は韓鶴子)の活動資金(韓国家庭連合の資金を含む)の減少を防ぐためであったと認めるのが相当である。すなわち、コンプライアンス宣言後も信者らによる不法行為が継続して行われてきた根本的な原因は、旧統一教会にある。 5 旧統一教会の信者らの不法行為による損害の状況 旧統一教会の信者らの不法行為に関する確定判決や訴訟上の和解によれば、信者らは、1973年3月から2016年6月までの間、確実に認定できる者に限っても全国の計506名の対象者に対し、不法行為に該当する献金等の勧誘を行い、これらの対象者やその関係者に対し、計74億3677万4691円の損害(財産上の損害のほか、精神的苦痛に対する慰謝料を含む)を与えたことが認められる。 信者らは、09年のコンプライアンス宣言後も、銃撃事件までの間、旧統一教会によって定められたコンプライアンス宣言前と同水準の献金収入の数値目標を達成するため、不法行為に該当する献金の勧誘を継続して行い、目標額に近い献金を集めることに成功していたことからすると、損害は前記金額に限定されるものではなく、不法行為の件数や被害額は、コンプライアンス宣言後も、それまでと同水準で推移したものと推認される。 6 安倍元首相に対する銃撃事件後の状況 22年7月の安倍元首相に対する銃撃事件後、旧統一教会は、献金収入の予算額を減額する措置を執っており、旧統一教会の信者らが銃撃事件後に行った不法行為が問題となった民事訴訟や訴訟外の示談の事案の有無が証拠上明らかではないことに鑑みれば、銃撃事件後、旧統一教会は、信者らに対し、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法・態様による勧誘では達成できないような数値目標を定めて献金の勧誘を行うよう求めておらず、信者らは不法行為を継続していない可能性があることは否定できない。 しかし、①旧統一教会は、銃撃事件後の社会的な批判という外発的な要因に対応するための一時的・暫定的な措置として、やむなく献金収入の予算額の減額を行ったにすぎないことがうかがわれること、②旧統一教会は、コンプライアンス宣言後も、一連の対策を形として執ることにより社会的な批判をかわし、民事訴訟等の件数を減少させて解散命令の請求等の事態に発展することを防ぎつつ、献金収入を維持することを優先したこと、③旧統一教会は、現在もなお、信者らにより不法行為が行われてきた根本的な原因が旧統一教会にあることを認めておらず、不法行為は旧統一教会とは別の法主体である活動体の構成員であった信者が行ったものにすぎないという姿勢を維持し続けていること(25年10月2日以降の東京地裁における集団調停における旧統一教会の対応、同月29日に立ち上げられた「宗教法人世界平和統一家庭連合補償委員会」による補償や、同年12月9日の田中前会長の辞任会見における謝罪といった対応も、信者らにより不法行為が行われてきた根本的な原因が旧統一教会にあることを認めた上で実施するものではなく、「被害を訴える者が存在することに伴う社会的・道義的責任」を果たすために実施するものにとどまる)、④旧統一教会の幹部が、韓鶴子からの過度な活動資金の拠出の要求を拒絶する意思も能力も有していないことがうかがわれることからすれば、旧統一教会は、今後、再び献金収入の予算額を引き上げ、信者らに対し、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法・態様による勧誘では達成できないような数値目標を定めて献金の勧誘を行うよう求めるおそれがある。 そして、銃撃事件後、旧統一教会は、信者らが「過度な献金」を勧誘しないようにするための措置を定めたが、適切な運用がされるかによって実効性が左右されるものであり、それだけでは、信者らの不法行為を防止するための措置としては不十分である。 よって、現在もなお、旧統一教会の信者らによる不法行為に該当する献金の勧誘が行われるおそれがある。 第2 解散命令の可否 以上のとおり、①信者らが民法の不法行為に該当する献金等の勧誘を行ったこと、②信者らが不法行為を行ったのは、旧統一教会が、信者らに対し、社会通念上相当な範囲を逸脱しない方法・態様による勧誘では達成できないような数値目標を定めて献金等の勧誘を行うよう求め続けたことによるものであること、③不法行為に該当する献金等の勧誘を未必的に容認してまで旧統一教会の献金収入や文鮮明等の活動資金を獲得するなどの目的の実現を図ることは不当である上、信者らの不法行為の行為態様は極めて悪質であり、信者らの不法行為により多人数の対象者に極めて多額に上る財産上の損害及び多大な精神的苦痛が発生し、これらの財産上の損害の発生は、対象者だけでなく、その家族・親族にも影響を及ぼし得るものであるなど、信者らの不法行為の結果が重大であることからすれば、旧統一教会について、宗教法人法81条1項1号(法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと)に該当する事由があると認められる。 旧統一教会が、今後、信者らによる不法行為を防止するための実効性のある対策を自発的に執ることは期待し難く、信者らによる不法行為を防止するための実効性のある手段は、旧統一教会の解散命令以外に見当たらないことからすれば、宗教団体としての旧統一教会及びその信者ら並びに法人としての旧統一教会の職員らの憲法上の権利(信教の自由等)を含む法的地位や権利関係に及ぼす影響を考慮してもなお、旧統一教会の解散を命ずることが必要でやむを得ないといわざるを得ない。よって、宗教法人法81条1項1号に基づき、旧統一教会の解散を命ずるべきである。