映画の推し事毎日新聞 2026/3/23 16:00(最終更新 3/23 16:00) 2989文字ポストみんなのポストを見るシェアブックマーク保存メールリンク印刷「罪人たち」©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.IMAX is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories 先ごろ行われた米アカデミー賞授賞式は、「ワン・バトル・アフター・アナザー」が作品賞に輝いて幕を閉じたが、授賞式全体を通して最も強烈な存在感を示していたのはライアン・クーグラー監督の「罪人たち」だった。 映画賞では軽視されがちなホラー映画でありながら、最多16部門のノミネートを果たし、主演男優賞、脚本賞、撮影賞、作曲賞の4部門を受賞。会場の熱狂的な盛り上がりぶりは、NHK-BSの生中継でもひしひしと伝わってきた。Advertisement全米大ヒット、日本は小規模公開 2025年春に全米公開された「罪人たち」は、オリジナル作品としてこの10年における最高のオープニング成績をたたき出し、2週連続1位の大ヒットを記録。各メディアや批評サイトでも、軒並み圧倒的な支持を獲得した。作品評価と興行の両面において、映画史上最も成功を収めたホラー映画のひとつと言っても過言ではない。 一方、日本では全国50スクリーンの小規模公開だったこともあり、さして話題にならなかった。上記のアカデミー賞受賞結果のニュースに触れて、「どうして、そこまで評価が高いのか」「そもそも、どんな映画なのか」と思った人も少なくないだろう。第98回アカデミー賞で最優秀主演男優賞を受賞し、スピーチする「罪人たち」のマイケル・B・ジョーダン=ロイターぎっしり詰まった独創性 1932年のミシシッピ州を舞台にした本作は、シカゴの暗黒街に身を置いていた一卵性双生児の兄弟スモークとスタック(マイケル・B・ジョーダンの2役)が、故郷の田舎町に舞い戻ってくるところから始まる。 彼らの目的は、白人から買い取った製材所を改装し、地元の黒人たちのための酒場を開くこと。ところがオープン初日の夜、恐ろしい“招かれざる客”の出現によって、兄弟とその仲間たちは生死を懸けた闘いに身を投じることに……。 日本では“サバイバルホラー”と銘打って宣伝、公開されたが、本作にはジャンル映画の枠に収まらない多様なオリジナリティーが詰まっている。 まず、ストーリーの構造からして型破りだ。通常のハリウッド映画は伝統的な3幕構成にのっとり、序盤の第1幕で主人公のキャラクターや状況設定の説明を手短に済ませ、冒頭から30分あたりでプロット上の劇的なターニングポイントが訪れるものだ。 しかし本作では137分の本編のうち、第1幕が1時間以上を占めるという異例の長さのため、映画の緊迫感が高まる第2幕(主人公たちと外敵との闘い)がなかなか始まらない。「罪人たち」©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.IMAX is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories2段構えの特殊構造 自らのオリジナル脚本を映画化したクーグラー監督は、“暗い過去を背負った男たち”というフィルムノワールの典型的な主人公であるスモークとスタックの人物像をきめ細かに描きながら、アメリカ南部特有のじっとりと湿った風土を観客に体感させる。 そして映画の真ん中まで引き延ばされた第2幕で、主人公たちと“招かれざる客”=吸血鬼の激闘を映像化。つまり本作は前半=フィルムノワール、後半=スーパーナチュラルホラーという2段構えの特殊構造になっていて、意図的にジャンルの“再構築”を試みた野心作なのだ。世界恐慌と禁酒法、ジム・クロウ法 さらに本作は、ジョーダン・ピール監督作品「ゲット・アウト」以降の流れをくむ“社会派”のブラックホラーでもある。背景となった32年は、言わずと知れた世界恐慌と禁酒法の時代であり、悪名高き人種差別法であるジム・クロウ法も存在していた。「罪人たち」©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.IMAX is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories スモークとスタックが忌まわしい過去を逃れ、荒野に黒人のユートピア(酒場)を築き上げようとする物語は、アメリカにおける人種差別の歴史を色濃く取り込んでいる。禁酒法下で酒を売る黒人兄弟は、当時の白人から見ればまぎれもない“罪人たち”だ。 しかし黒人の視点に立てば、彼らを虐げる法律そのものが不当であり、それを作った白人こそが“罪人たち”だという見方も成り立つ。本作のタイトルには、「本当の罪人とは誰なのか?」という反骨精神に満ちた問いかけがこめられている。 また音楽も、本作が絶賛を博した大きな要因だ。中盤、スモークらのいとこにあたる若き天才ギタリストのサミー(マイルズ・ケイトン)が奏でるブルースミュージックによって、荒野の酒場は祝祭的な聖域と化す。黒人ブルースVSアイルランド民謡第98回アカデミー賞で最優秀撮影賞を受賞した「罪人たち」のオータム・デュラルド・アーカポー=ロイター その場に居合わせたすべての黒人を陶酔させ、抑圧された日常から解き放つその音楽は、まさに黒人のソウルそのものだ。 おまけに撮影監督のオータム・デュラルド・アーカポー(有色人種の女性として史上初のアカデミー賞撮影賞を受賞)が、ステディカムの長回しショットで捉えたこの驚くべき場面には、ジミ・ヘンドリックスをほうふつさせるギタリストや現代のヒップホップアーティストらが酒場に降臨。黒人音楽の過去と未来を、あたかも時空を超えた超常現象のように交錯させた圧巻のシークエンスとなった。 加えて、黒人の魂を象徴する“聖なる音楽”が、皮肉にもこのうえなく邪悪な吸血鬼を呼び寄せてしまう展開も興味深い。なぜクーグラー監督は、悪魔でも悪霊でもゾンビでもなく、吸血鬼という古典的な魔物を登場させたのだろうか。 周知の通り、不死の吸血鬼は人間の生き血を吸う怪物だ。おそらくクーグラー監督は、黒人を奴隷としてこき使い、彼らの“血”をすするかのように執拗(しつよう)な搾取を繰り返してきた白人の差別のメタファーとして、吸血鬼こそふさわしいと考えたのだろう。 吸血鬼のリーダーであるレミック(ジャック・オコンネル)がアイルランド移民で、黒人ブルースVSアイルランド民謡という音楽のせめぎ合いが描かれている点にも、アメリカの歴史にまつわる寓意(ぐうい)がこめられているのだろう。「罪人たち」©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.IMAX is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories籠城映画のスピリット注入 むろん、「ブラックパンサー」など黒人文化に根ざしたメインストリームの娯楽大作を世界に発信してきたクーグラー監督だけに、ジャンル映画としてのホラーを期待する観客への目配りも怠らない。 黒人たちが酒場に立てこもり、大挙押し寄せてくる吸血鬼との熾烈(しれつ)な攻防を繰り広げるバトルシーンには、ハワード・ホークス監督の「リオ・ブラボー」からジョン・カーペンター監督の「要塞(ようさい)警察」へと受け継がれてきた“籠城(ろうじょう)活劇”のスピリットが注入されている。 ロバート・ロドリゲス監督の「フロム・ダスク・ティル・ドーン」、カーペンターの「遊星からの物体X」へのオマージュも盛り込まれ、過度にVFXに依存しないアクション描写も実にエネルギッシュな仕上がりとなった。興行支える作家性強いジャンル映画 2025年におけるアメリカの映画業界を振り返ると、「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2」「死霊館 最後の儀式」「28年後...」といったシリーズものに加え、「ノスフェラトゥ」「WEAPONS/ウェポンズ」といった作家性の強いユニークなホラーが興収チャートをにぎわせた。 とりわけ破格の製作費を投じ、IMAX70ミリフィルムカメラで撮影された「罪人たち」は、本来はローコストのB級ジャンルであるホラーの“格”を超A級へと押し上げた。 ハリウッドは長らくマーベル作品に代表されるアメコミヒーローものに巨額の投資を行ってきたが、そのブームが一段落した今は、ホラーが興行の屋台骨を支える一角を占めつつある。その意味においても、画期的な成功を収めた本作の影響力は計り知れない。(高橋諭治)【時系列で見る】【前の記事】「90メートル」が描くヤングケアラーのリアル 本物の涙がここにある関連記事あわせて読みたいAdvertisementこの記事の特集・連載1時間24時間SNSスポニチのアクセスランキング1時間24時間1カ月アクセスランキングトップ' + '' + '' + csvData[i][2] + '' + '' + '' + listDate + '' + '' + '' + '' + '' + '' } rankingUl.innerHTML = htmlList;}const elements = document.getElementsByClassName('siderankinglist02-tab-item');let dataValue = '1_hour';Array.from(elements).forEach(element => { element.addEventListener('click', handleTabItemClick);});fetchDataAndShowRanking();//]]>