再開発が計画されている名鉄名古屋駅=名古屋市中村区で2025年11月10日、本社ヘリから小関勉撮影 名古屋駅地区の巨大再開発計画が宙に浮いている。10年前から進められてきた計画は事実上の白紙となり、2月末に閉店した名鉄百貨店などの解体時期も未定で、建物はしばらくそのまま残される。今秋にはアジア競技大会も控え多くの外国人も訪れる。「名古屋の玄関口」はどうなるのか。【式守克史】ゼネコンが入札辞退で工事が暗礁に 名古屋鉄道が最初に再開発計画を打ち出したのは2015年。名鉄百貨店の本館から南に約500メートルの区域を一体的に再開発する計画で、当初27年に開業予定だったリニア中央新幹線に合わせ、20年までに着工するとしていた。Advertisement 17年、南北400メートルにまたがる高さ160~180メートルのビルを建設すると発表。19年には地下にある名鉄名古屋駅の線路を現行の2線から4線に拡張する計画も明らかにした。しかし、20年には新型コロナウイルス禍の影響で需要の変化や経営悪化に直面。22年の着工断念と計画の全面見直しに迫られた。 昨年3月に改めて示された計画では、名鉄名古屋駅の線路4線化は維持されたが、高層ビルについては高さ170メートル級のビル2棟を低層階でつなぐ構想に変更。名鉄百貨店などの閉店日も発表された。26年度に建物を解体し、33年度以降にホテルやオフィス、商業施設を順次開業し、40年代前半には全面オープン--という道筋を描いた。 しかし、計画は再び暗転する。工事を請け負う予定だったゼネコン3社によるJV(共同企業体)が昨年11月に入札を辞退。辞退届には「現行計画の事業規模や工事の難易度などから施工体制の構築は困難」との説明があったという。工事は暗礁に乗り上げ、名鉄は計画を一から見直さざるを得なくなった。今後のスケジュールが未定となった名古屋駅地区再開発エリアの一角。店舗のシャッターは閉まり、日中でも閑散としていた=名古屋市中村区で2026年3月6日午後0時33分、式守克史撮影「金を出せば人が集まる」は通じない 資材・人件費の高騰により、JVから示された工事費の見積額は当初想定の約2倍に膨らんだ。総事業費は当初2000億円程度とみられたが、25年時点では約4倍の8880億円に膨れ上がった。 ここ数年、建築資材の高騰はとどまる気配がない。建設物価調査会によると、建物の基礎などを造る生コンクリートや、建物の骨組みとなる鉄筋の今年1月の価格指数は、15年と比較すると1・55~1・75倍に増加。建築コスト全体を押し上げており、大型事業の指標となる「集合住宅(RC造)」「事務所(S造)」の価格指数も、15年比で40%以上も上昇している。 一方で、人材不足と、それに伴う人件費の急騰も障壁となっている。日本建設業連合会が25年7月に公表した「建設業の長期ビジョン」によると、建設技能労働者数は1992年の約408万人をピークに、2035年度には約264万人まで減少する見通し。人材不足は約129万人に上ると予測している。 東海地方のゼネコン関係者は「金を出せば人が集まり、工期が守れるという従来の常識は通用しなくなった」と打ち明ける。 要因の一つとして24年度に始まった残業規制強化を挙げる。1人当たりの労働時間が減少したことで「これまでと同じ工期で工事を完遂するには、より多くの人員を投入する必要がある。でも、業界全体の人手不足により頭数は物理的に確保できない」と指摘する。スクラップ・アンド・ビルドはもう成り立たない? 資材価格や労働力は社会情勢によって大きく変動するが、近年はそれらの変動予測がより困難になっており、「将来の変動が見えにくい不確実性のリスクがあり、長期にわたる約束(契約)をする決断が難しい状況にある」と明かす。工期が長い大型プロジェクトや、高い技術力が求められる難工事は受注しづらい状況が生まれているようだ。 名鉄の高崎裕樹社長は、昨年12月の記者会見で「複雑性をできるだけほぐし、難易度を下げる工夫が我々には必要だ」と説明。今後の対応については、26年度中に何らかの方向性を示すとしている。 再開発事業の停滞は名古屋だけではない。東京都中野区の「中野サンプラザ」跡地の再開発計画や、福岡市の博多駅空中都市プロジェクトも、建設費高騰などの影響で白紙化や中止に追い込まれている。名古屋駅地区再開発計画の見直しについて言及する高崎裕樹社長=名古屋市中区で2025年12月12日午後4時35分、式守克史撮影 都市計画に詳しい横浜国立大の松行美帆子教授は「人手不足と建設費高騰という構造的な問題のほか、円安もコスト上昇を増幅するダブルパンチとなっている」と指摘。今後も各地で同様の事業停滞が再発する可能性があるとしたうえで、「全国的に(古い建物を壊して新しく造るという)スクラップ・アンド・ビルドの再開発はもう成り立たない時代になっている」と話す。官民合同で議論の方針 名鉄の名駅地区再開発事業見直しや、JR東海のリニア中央新幹線の開業遅れを受け、名古屋市は4月、駅周辺のまちづくりの方向性を議論する官民合同の会議体を設置する。 広沢一郎市長が名鉄やJR東海側に会議体設置を呼び掛けた。この3者に加え、国や県、有識者も加わる予定で、市が人選を進めている。 会議体設置の狙いについて、広沢市長は「名鉄の名古屋駅の再開発がどうなるかは将来の名古屋、その近郊にとっても重要なポイント」と説明。その上で「官民が一致団結、総力を挙げてリニア新時代の名古屋をつくっていきたい」と語った。 再開発事業への行政による財政支援の可能性について問われた広沢市長は「スキームは決まっていない。どうやって名古屋を盛り上げていくか、計画見直しに対処していくかなど幅広く議論することになる」と述べた。