2025.09.30山口亮(国防・安全保障専門家)tags: カンボジア軍, タイ軍, ミリタリー, 法律, 物流タイとカンボジアが国境地帯で緊張が再び高まっており、交戦にエスカレートする恐れがあります。日本の企業が多く進出している両国間の衝突を注視しなければなりません。 タイとカンボジアは2025年9月27日、領有権を争う国境地帯の各地で、双方ともに相手側から攻撃されたと主張しました。これにより、武力衝突が再発する恐れが高まっています。拡大画像タイ軍の砲撃によって損壊したカンボジア領内のガソリンスタンドを視察するマレーシア軍主導の停戦監視団(画像:カンボジア国防省)。 両国は、2か月前の7月29日にトランプ米大統領や、ASEAN(東南アジア諸国連合)議長国を務めるマレーシアのアンワール・イブラヒム首相による仲介により停戦し、緊張緩和に向けて対話してきました。しかし、そのなかで双方が「停戦合意違反があった」と非難の応酬を続けてきた経緯があります。 そして9月27日正午頃、両国軍のあいだで、再び銃撃戦が発生しました。タイ軍は、カンボジア軍が銃や手榴弾で攻撃してきたと主張。一方でカンボジア国防省は、タイ軍が機関銃や迫撃砲で攻撃してきたと、これまた主張しており、互いに停戦違反行為を巡って水掛け論を展開しています。 ここ数日で再び緊張が高まったタイとカンボジアの国境紛争ですが、ことの発端は100年以上前に遡ります。フランスは1863年にカンボジアを植民地化すると、20世紀に入りタイとのあいだで国境線を定めようと動きましたが、曖昧なままとなりました。 カンボジアが独立した後も、総延長で約817kmもある国境を巡って両国の主張は平行線をたどり、11世紀に建てられたプレア・ヴィヒア寺院に関しては1962年6月に国際司法裁判所がカンボジア領であると認めたものの、タイはこれを不服とし認めない状態が長く続きました。 両国の主張はしばらく平行線をたどり、互いに譲らないままでしたが、カンボジアが2008年にプレア・ヴィヒア寺院をユネスコ世界遺産に登録しようとしたことで、関係が悪化します。 以降、タイとカンボジアのあいだで、たびたび銃撃戦が起きるようになり、2011年には砲弾を撃ち合う事態まで発生しました。2013年11月に国際司法裁判所はプレア・ヴィヒア寺院の周辺地域もカンボジア領土としましたが、国境そのもの判断は明確にしなかったため、紛争の解決には至りませんでした。 そして今年5月、カンボジアの兵士が死亡した銃撃戦で緊張が一気に高まり、7月16日と23日にタイ軍兵士が国境地帯で対人地雷により負傷し、同月24日には銃撃戦に加え砲撃や無人機による攻撃、さらにはタイ側がF-16戦闘機で国境地帯にあるカンボジア軍の拠点を攻撃するまでに至ったのです。【次ページ】問題を先送りしても火種はくすぶり続けるだけ【写真】世界で唯一! タイ陸軍しか使っていない戦車です