300頭残し閉園の民間動物園 17回行政指導、なぜ20年間も営業?

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民間動物園「ノースサファリサッポロ」の看板。30日に閉園する=札幌市南区で2025年9月18日午前9時24分、水戸健一撮影写真一覧 市街化調整区域で許可を得ずに開設された札幌市南区の民間動物園「ノースサファリサッポロ」が30日、閉園し、20年間の営業を終える。施設の撤去が進めば、違法状態是正に向けた一歩になる。一方、300頭超の動物が依然として園内に残されており、閉園後の動物の飼育環境や引き取り先が懸念される。 「法令違反により、お客様やファンの皆様のご期待を損なう結果になってしまったこと、深くお詫(わ)び申し上げます」。動物園を運営するサクセス観光(札幌市)は29日、ホームページで「閉園のごあいさつ」を発表した。Advertisement 「動物たちとふれあえる体験型動物園」をうたうノースサファリはテレビ番組や旅行雑誌などで取り上げられ、来園客も少なくなかったが、開設されていたのは、市街化調整区域だった。 市街化調整区域は、無秩序な市街地の開発を防ぐ目的で、都市計画法で規定された都市計画の区分。自然環境を守るため、新たな開発や建築が制限される。立地基準に適合し、許可を得なければ開発などができない。 札幌市は動物園開業前の2004年10月、現地で違法建築物を確認。運営会社に説明を求めたが応じなかったため、05年4月に違法建築物10棟の撤去を求めて行政指導した。 だが、運営会社は05年7月に動物園を開業。当初、営業にあたって動物愛護管理法が求める第1種動物取扱業の届け出(登録)がなかったが、市が06年5月に受理したため、違反状態は是正され、営業は許可された。 行政指導と許可という二つの対応は一見すると、ちぐはぐだ。だが、市の別部署がそれぞれの法律に照らして行っていた。 動物園営業を許可したのは動物愛護管理センター。千葉司所長は「もちろん地図で動物園の場所を確認した」と言う。ただし、「まずいと分かっていても都市計画法違反をもって、動物愛護管理法上の登録をしないことは裁判例から認められない」と説明。「変なところに変なものを建てようとしている」と市街化調整区域の建築物を管轄する開発指導課に情報提供したという。 一方、開発指導課は行政指導について「当事者の是正を促すことが基本。『改善していきます』という返事があれば、それ以上、踏み込んだ対応をしてこなかった」。秋元克広市長も記者会見で「相手に是正の意向があるということで協議を続けた」と弁明した。 市は04年から24年にかけて口頭や文書で運営会社に計17回の行政指導を繰り返した。その間、都市計画法違反を認識しながら、動物園を皮切りに、食の安全推進課が07年4月に食品衛生法に基づき飲食施設、生活環境課が19年11月に旅館業法に基づき園内宿泊施設の営業を許可。事業は拡大を続けた。 秋元市長は「何らかの違法があり、事業が拡大する状況が見えた段階で対応する余地があった」と反省点を挙げる。対策として、市街化調整区域の違法建築物に対する行政指導、処分などを行う際の基準を設け、4月から非公開の内規として運用を始めている。市が9月の立ち入り検査時に撮影した園内の様子=札幌市提供写真一覧違法建築物118棟、動物は計319匹を確認 動物園を巡っては、市が閉園を控えた9月に2回の立ち入り検査を実施。違法建築物は18日時点で獣舎やフードコートなどの118棟、動物は5日時点で哺乳類209匹、鳥類79羽などの計319匹が確認された。 運営会社は市に動物の搬出に関する計画書を提出。ただ、全ての動物が網羅されておらず、不透明な部分がある。市は計画書の補充を求め、閉園後も動物の飼育環境の確認を続けるというが、帝京科学大の佐渡友陽一准教授(動物園学)は「大型であればあるほど行き先が見つかりにくい。代金を支払ってでも引き取り先を見つけなければならない状況だ」と懸念する。 運営会社は29日、ホームページで「受け入れ先についても調整が進んでいる。動物たちにできる限り負担の無いように、細心の注意を払い、解決する」との方針を明らかにした。佐渡友准教授は「生命と安全に支障を来すのであれば、獣舎の撤去や動物の移動ができなくても仕方ないと主張できる可能性を残す」と指摘し、園側の対応を注視する。【水戸健一、後藤佳怜】